突然、玄関のドアが開く音がして、誰かの慌しい足音が廊下に響いた。
明かりの点いた、のいる部屋へ、足音は真っ直ぐ近づいてくる。

!」

彼は彼女の姿を見つけると、部屋先で大きく息をついた。






「明かりも点けっぱなしで、鍵もかけずにいなくなるから…、
 何かあったんじゃないかと思って心配したじゃないか」

ルーピンの頭や肩には雪が残っていて、彼の鼻先も耳も、指先も真っ赤にかじかんでいた。
あちこち探し回ったのか、息を切らし、口を閉じたまま下を向くを見下ろしていた。
あいにくモリーはベッドの支度をしに2階へ、シリウスは地下へ新たな酒瓶を探しに行ったところで、彼女は一人だった。

ルーピンがやっと来てくれて、本当はとても嬉しかった。
でも彼の第一声が、自分を責めるように聞こえて、なんだかは無性に腹立たしくなってしまった。
なんで最初に謝ってくれないの?


一向にルーピンの顔を見ないの側まで歩き、彼はため息をついて言った。

「すまない。約束を守れなくて、」
「しょうがないですよ。あなたは大事な騎士団の任務中だったんだし。」

付け加えたように言われた言葉を、彼女は張り詰めた声で遮った。
彼女の態度に、ルーピンは一瞬眉を寄せる。とても疲れていたが、辛抱強く彼は微笑んで言った。

「それでも君との約束を破ったのは確かだ。
 イヴは過ぎてしまったが、今日はずっと一緒にいられるから、やり直させてくれないか?」

ぱっとが顔をあげて、彼を見た。いつもなら、ここでは微笑んで頷いてくれる。

でも、

この日は違った。



「あなた疲れてるんでしょう?別に無理しなくていいです。
 無理に、そんな笑わなくたって!私がこんな約束のことで腹を立ててるんで、子どもっぽいと思ってるんでしょ?」
?」

持っていたグラスをテーブルに音を立てて置くと、は立ち上がって彼を睨み付けた。
思わぬ反応に、ルーピンは一瞬たじろいだ。彼女の頬は、ほんのりと赤かった。

「馬鹿みたいにクリスマス楽しみにしてるとか、
 一人でじっと待っていられなくて、ここに来てるなんて呆れてるんでしょ?
 それも部屋の明かりも消さずに、鍵もかけずに!」
、」

伸ばされた腕をはらって、は後退った。彼は驚いたまま彼女を見つめた。

「心配かけてごめんなさい。でも、私だってあなたのことずっと心配してたのよ!
 今日だけじゃなくて、今までずっと。それなのに、あなたは私に何も話してくれないっ。
 あなたがどこにいて、何をやってるのか、無事なのかも分からない。
 私は役に立たないし、こうやって足手まといにしからならないから、しょうがないことでしょうけど!
 今だって、なんて面倒くさい奴なんだろうって、きっと思って…」

「いい加減にしないか!」

ぴしゃりとルーピンがそう言うと、彼女はやっと口をつぐんだ。
彼はしかめた顔のまま、一度息を吐いて、静かに言った。

「私は、今まで一度だって君をそんなふうに思ったこと無いよ。
 どうしたんだ、。いつもの君らしくもない」

その言葉を聞いて、は胸が苦しくなった。


「私らしくない?じゃあ、私らしいって何ですか?
 いつもみたいに、あなたが帰ってきたら、我侭も何も言わずに微笑んでること?」
「そういうことを言ってるんじゃない」

ルーピンは疲れた顔をして首を横に振った。
は、そんな彼を見ていながらも、やつあたりをしてしまう自分が、嫌でしょうがなくなった。

彼のためにもっと心の強い人間になりたい。そう思っていたのに。
あれからちっとも成長していない。むしろ、ますますひどく思えてきた。


「…そんな私になれたらって、思ったわ。だから、あなたの前ではそう努めてた。
 でも、ごめんなさい。…私には、やっぱり、もう耐えられそうにないです…」

泣くのは反則だ。
分かっているのに、涙が溢れてきてしまった。

こんなこと、言いたくなかった。
なんで最後まで、彼の無事を信じて、祈り続けることができないんだろう。
なんで我侭を、弱音をはいてしまうんだろう。
彼の置かれている身の危険に比べたら、待つことなんて、本当に大したことないのに。

寂しいなんて、寂しくて耐えられないなんて、私の我侭なだけなのに。
疲れている彼にやつあたりをしてしまって。

本当に、馬鹿みたい。


!」

彼が何か言いかける前に、は急いで彼の横を通り過ぎ、部屋から出て行った。
慌てて彼女の後を追いかけようとしたルーピンを、誰かの腕が遮った。

「リーマス、ちょっと待ちなさい!」
「モリー?!」

の姿が視界から消えてしまい、押さえつけられていたルーピンは困惑した表情でモリーを振り返った。

「彼女が行ってしまったじゃないか!」
「大丈夫、きっと家に帰ってるわ。それより、ひとつ言っておくけど」

モリーは人差し指を立てながら、ルーピンに言った。

「とにかく帰ったら、彼女を抱き締めてあげなさい。」

「モリー?」
眉を寄せるルーピンを、彼女は真剣な目で見上げていた。

「今は何を言っても冷静ではいられないんだから。とにかく安心させてあげなくちゃ。
 彼女、妊娠してるのよ。」






「…なんだって?」

さらっと言われた言葉に、驚いてルーピンはしばらく言葉を失ってしまった。

「多分ね。アーサーのお見舞いに行ったときにたまに見かけたのよ。
 聖マンゴの近くに、マグルの病院があるから…あとは私の勘だけど。」
「勘って…」

訝しむ彼の腕を、モリーは軽く叩いた。

「あなたが大変な思いをしてることは、私も、もちろんも分かってるわ。
 でももっとちゃんと話さないと。待つほうだって、とても寂しくて辛いものなのよ。
 私はアーサーが何をやってるかも知っているし、子どもたちもたくさんいて、
 半分は…今はホグワーツにいるから、まだ耐えられるわ。」

「でも、は一人きりなのよ。あなたがいない間、ひとりでずっと待ってるの。
 それに、子どもができたなんて初めてのことで、心細くてしょうがなかったんだと思うわ。
 あなたとも連絡がとれないしね。」

「………」

しばらくモリーを見つめていたルーピンは、やっと頷いた。

「分かった。ありがとう、モリー」
「いいえ。おめでとう、リーマス」

モリーが笑って彼の背を押すと、ルーピンは嬉しそうに微笑んで、部屋から出て行った。

「お、やっと来たのかリーマス!ってお前、どこ行くんだ?」
「ごめん、また来るよ!」

すれ違いざまに酒瓶を手にしたシリウスが声をかけたが、
ルーピンは明るい声でそう言って、親友に手を振った。




















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