名前を呼ばれ、
目の前に差し出された手のひらを、は一瞬、呆然と見つめてしまった。
隣に座る彼の顔をちら、と見てみれば、少し頬を染めて、けれども視線は下げられたまま。

気まずい雰囲気ながらも、リーマスがなんとか手を差し出してくれた。
授業中だから、押し黙っている訳にはいかないんだ。

彼に感謝する気持ちのいっぽうでは、早くここから逃げ出したくて。
は少しの間戸惑ったものの、微かに震える自分の手を、やっとのことで彼の手に重ねた。





第12話 秘密の約束






もう彼女の顔なんて見れなかった。


リーマスは初めての手をとって、自分のしたことを後悔したぐらいだ。
胸が高鳴ってしまってしょうがない。いつも冷静な自分が、信じられないくらい。

彼女に気付かれないように、自分を落ち着かせるために、また小さく息をついた。
の手は、自分のものより小さくて、指先も細くて儚い感じがした。
だから、大切に包んで守ってあげないなんて、ふとバカな気持ちが頭をよぎる。
手をとっているだけでこんなにもドキドキするのに、
よくも抱き締めてキスなんてすることができたと、そう思ってしまう。

リーマスは無理やりにでも、教科書に意識を集中させて、
自分の右手に重ねられた彼女の左手のひらを、教科書と交互にじっと見詰めた。

「…えーと…、真ん中の線がこの線から真っ直ぐ延びてるから…」

リーマスの声が聞こえてきたので、も自分の手のひらに視線を移した。
まだ恥ずかしい気持ちでいっぱいだったけれど。
占い学の席は、2人向かい合わせというよりも、隣に並んでひとつのテーブルを使っているため、
他の教室よりもぐっとお互いの距離が近くて。

ぱらぱらと、リーマスは教科書をめくったり、唸りながらページに視線をさ迷わせていた。
はそんな彼の真剣な表情を、ちら、と見ては、すぐに視線を逸らす。

「自身の努力でたくましく生きる…努力家…がんばり屋さんだって。」
「あっ、…当たってるかも」

少し驚いたようなの声に、思わずリーマスも顔を上げて彼女を見た。

「ほんと?」
「う、うん。ほんとに。」

お互いに、その瞬間、少し笑顔になった。

「それから、"人生のさまざまな試練に打ち勝ち前進を続け、
 勝利と成功を勝ち取ることができる運勢"だって。」

再び教科書からへと視線を移したリーマスに、本当に?とは嬉しそうに笑った。
占いが面白いのもあるが、素敵な言葉をリーマスが読んでくれたことが、なんだかとても嬉しくて。
彼もつられて笑顔になる。

「すごいね、結構当たるものなんだ。」

この授業をとっていながら、まったく占いなんてものを信じていなかったリーマスは、
少し感心したように言った。それを聞いたが、横でふふっと笑った。

「じゃあ今度は私が見るわ。」
「え?!…あ、うん。」

少し頬を染めたが、驚いたリーマスの手をとった。
先程の自分と同じように、教科書と手のひらを見比べているの横顔。
間近で見る彼女の横顔をこっそり見つめながら、リーマスはとても心が満たされる気がした。
重ねられた手の温もりに。
そしてその反面、また、切なくなる。

―やっぱり、僕はが好きだ。


今までの気まずい空気も、和らいでいた。






授業もやっと終わりそうな頃、教授が話をしている時、
テーブルの上に置いていた手を羽ペンで軽くつつかれて、は驚いてリーマスを見た。
彼は視線をテーブルの上の羊皮紙に促すように合図して、何かを羊皮紙の上へ書き綴った。

"君に話したいことがある."

それを読んだは、少し眉を寄せて、また彼を見た。
リーマスは彼女の困ったような視線を受けて、また続きを書き始めた。

"この前のこと、謝りたくて."

は一瞬目を丸くして、考え込んだ。
そして、困ったような悲しそうな曖昧な表情をして、彼にしか分からない程度に軽く頷いた。
リーマスは真剣な顔をして、羊皮紙に視線を戻すと、"今日の夕食後、場所は、"と書いて、
しばらく迷っているのか、ペンを進めなかった。
すると、が羊皮紙の空いているスペースに、"温室"と書いた。

2人は分かったというように、お互い視線を合わせた。

密談しているようで、罪悪感が沸き起こる。ドキドキする胸の高鳴りはおさまらない。
お互いに、この関係をどうしたらよいか分からなかったけれど、
このままでいいはずがなかったから。



2人の間で交わされた約束は、リーマスが羊皮紙をトンと杖で叩いたことで、跡形もなく消えた。








、なんか顔色よくなった?」

占い学の授業が終わった後、生徒たちがぱらぱらと教室を後にするとき、
はリリーにそう言われて、目を瞬いた。

「そ、そうかな…?」

そういえば、なんだか授業前の気分に比べると、ずっと楽になった気がした。お腹が痛いのも治っている。
まだ胸につっかえているものは取れてはいないけれど。
は分かっていた。リーマスと話すことが出来て、少しほっとしたんだ。

彼女とリリーが話してる横を、リーマスとピーターが、すっと通り過ぎていった。
振り向きもせず、声もかけずに教室のドアへと消えた彼の背中を、は思わず見つめてしまった。
リリーはそんな彼女の様子を、なんともいえない思いで見ていた。




謝りたいって、それだけなのかな…


謝られて、許せば、今までのように友達同士でいられるのかな。

リーマスは、なんであんなことしたのだろう。





は、何故か切なくなってしまい、気付き始めていた感情に蓋をするように、
すっと瞼を閉じて、小さなため息をついた。


















(2008.11.16) 無理やり話を進めてみました。久しぶりに書いたので訳が分からないです(汗。


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