「リーマス」

名前を呼ばれ、リーマスはその声にびくりとした。内心後ろめたさでいっぱいだった。
振り向いた先にいたシリウスは、少し気まずそうな顔をしていた。

「…さっきは…、悪かったな。無神経で、ひどいことした。
 ガキっぽいやきもち焼くなんて、どうかしてたよ。」
「……、いいよ。もうそんなに気にしてないから。
 僕の正体がばれるのも、時間の問題だったかもしれないし…」

シリウスの真っ直ぐな瞳を見返すことができなくて、リーマスは視線を床に落としていた。
それを見たシリウスは、よほど彼が落ち込んでいるのかと思い込んで、慌てて付け加えた。

「そうだ!今度ホグズミードへ行った時にバタービールの1杯や2杯おごるぜ?
 なんならお前の好きなお菓子も、好きなの選んでいいからさっ」

素直に謝ってきた友人に対し、リーマスはあそこまでショックを受けていた自分が、馬鹿みたいに思えてきた。
そうだ。それに、本当に馬鹿なことをしてしまった。取り返しがつかない。
シリウスを裏切ってしまった罪悪感で、リーマスはいつものように微笑むことができなくなっていた。

「あっ、いいな!シリウス、そうしたら僕とピーターにもおごりなよ!」
「はぁ?!なんでだよ、なんでお前とピーターにまで!」
「そりゃあ、部屋の雰囲気悪くしたお詫びだよ?」

見かねたジェームズの助け舟で、リーマスはやっとシリウスの側から離れることができた。
彼に対して謝らなくてはならないけれど、今はどうしても、そんな勇気は出せなかった。







第10話 ともだち







はね、具合が悪いからちょっと部屋で休んでるの。」
「えっ、風邪か?医務室に行かなくて平気なのか?」
「そこまで大したことはないみたいよ。ちょっと休めば治るって。風邪じゃないみたいだけど…」

珍しくリリーの隣の席は空席だった。
気になったシリウスが彼女に話しかければ、は午後の授業は休むという。

「じゃああとで見舞いに、」
「あのね、女子寮には入れないでしょ。それに、シリウスが行ったら気を使うから、ちょっと休ませてあげて。」

シリウスはわざとらしく口をとがらせると、渋々頷いた。

「朝は元気そうだったのにな。」


2人のやりとりを側で聞いていたリーマスは、眉を寄せた。



嫌われたくないと思ったのに、きっと、に嫌われてしまった。
ひどいことをしたから。彼女が嫌がるのも、怒るのも、無理もない。

とにかく、彼女に謝らなくちゃ。
聞いてもらえないかもしれないけれど。

僕の気持ちを言ったところで、もっと彼女を困らせてしまうだけだろうから。
前みたいに、もう一緒に笑って話せることはできないだろう。
彼女に嫌な思いをさせてしまったんだから、ただ、謝ることはしなくちゃ。
彼女が許してくれなくても。

―でも、あの時、なぜ彼女は自分から目を瞑ったのだろう。
なぜ、何も抵抗しなかったんだろう。僅かな期待が頭をよぎった。
でもそれは思い過ごしで、彼女は突然のことに驚いてしまっただけだと、僕は自分に言い聞かせていた。







授業も終わり、生徒たちが教室を出ようというとき、リーマスはリリーに呼び止められた。
羨ましい視線を送るジェームズを無視して、彼はリリーの後をついていった。
そして、人気がなくなった廊下へ突き当たると、彼女は険しい顔をして振り返った。

「ちょっと、あなた何やってるのよ!は今シリウスと付き合ってるのよ?
 それなのに今更ちょっかい出して、一体何考えてるの?」

人差し指をリーマスの胸に突きつけて、リリーは少し小さい声で言った。
責められた彼は、苦い顔をして彼女を見下ろした。言い訳なんてできなかった。

「……は…?」
「困ってるに決まってるでしょ?!それどころか泣いてるわよ、どうしようって。」

最悪だ。
リーマスは心の中で唸った。

「…本当にが好きで、それなりの覚悟があるんだったら、ちゃんと本人に言うべきだわ。
 中途半端なのが一番よくないから。」
「告白するつもりはないよ。にはシリウスがいるんだ。僕がただ、馬鹿なことをしただけだ。
 彼女にできることなら謝って…、それから、もう彼女には関わらないようにする。」

それを聞いたリリーは、驚いて思わず言った。

「そんな簡単に諦められるの?」
「分からないよ!でも、それは…当たり前のことじゃないか。
 彼らは上手くいってるし、僕が彼女に片想いしてただけなんだから。
 最近少し仲良くなったから、勝手に僕が浮かれてただけだ。」
「でも…、」

視線をそらして考え出したリリーに、リーマスは眉を寄せた。
彼女は一体、何を自分に言いたいのかがよく分からなかった。
親友を困らせたことを怒りに来ているはずなのに、諦めると言うと変な顔をする。

やがてリリーは顔をあげて言った。


 
「やっぱり、どう思われようが、にあなたの今の気持ちを伝えたほうがいいと思うの。
 あんな大胆なことをした訳だし。それに、選ぶのは彼女よ。」
「リリー、選ぶも何もないよ。言ったら困らせるだけだ。今度こそ本当に嫌われる。」

顔をしかめるリーマスに対し、リリーは真剣な顔で答えた。

はあなたのこと嫌いになったりしてないわ。
 泣いているのは、自分の気持ちが分からなくて迷ってるからなの。」















(2008.3.9) 展開が難しい…どないしよう。


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