僕には関係ないだとか、よかった、なんて本当は言うつもりはなかった。 リリーに見透かされているように、僕は前からのことが気になっていたから。 もちろん彼女がシリウスに憧れているのも知っていた。 だから、よかったじゃないか。 このまま上手くいってくれたらいい。 僕にはどうすることもできない。 僕は誰かを好きだとか、恋人同士になるとか、そんなものとは無縁なんだ。 そう思うのに、やっぱり心のどこかで、まだ諦めきれなかった。 いつもと違って楽しそうなシリウスや、彼の横で頬を染めるを見ると、とても苦しくなる。 第4話 片想い 涼しげな秋の風が吹き始めたが、温室の中は一年中温かかった。 魔法薬に使われる薬草が所狭しと栽培され、生徒が授業中以外来ることも少なかった。 だから、リーマスにとっては一人になれる、心が落ち着ける秘密の場所だった。 スプラウト教授に頼まれて、いつものようにリーマスが薬草に水をやっていると、誰かが温室へ入ってきた。 その人物を目にして、思わず彼の胸が高鳴った。 「リーマス?」 彼女も彼と同じように、少し驚きながらも声をかけた。 リーマスは初めて名前を呼ばれて、内心動揺していた。 「やあ、」 彼がにこっと笑うと、彼女は安心したように彼の側まで歩いてきた。その手には小さな袋が握られている。 「水、あげてるの?」 「うん、スプラウト教授に頼まれて…いつものことなんだ。」 「そうなの。」 は遠慮がちにそう言って、周囲を見回した。いつも授業で使われている温室だが、生徒がいないとそれだけで、普段より広く感じる。 緑に囲まれたこの場所は、なんだかとても気持ちがよく、気が休まる。 一度大きく息を吸い込んではいた彼女を、リーマスは横目でこっそりと見た。 この空間にいるのは、自分と、たった2人だけで。心が落ち着けるわけが無い。こんなことは初めてだから。 そう、こんなに近くで彼女を見たことだって、一度もない。 がリーマスに視線を戻す前に、彼は慌てて目をそむけた。 「はどうしたの?」 「あ、あのね、これを植えようと思って」 彼女は少し照れながら、持っていた袋の中を見せた。 お互いよそよそしいのだが、当の本人たちは気付いていなかった。 「何の植物?」 「マーガレット…っておばあちゃんが言ってた。…どこに植えたらいいかな?」 袋の中を覗き込んだリーマスを見上げて、が聞いた。 それが可愛らしい上目遣いなものだから、思わず彼はドキリとしてしまった。 「ああ、これぐらいの大きさなら、ちょうど良い鉢が空いてたよ。」 少し赤くなった顔を隠すように、リーマスは温室の中を歩いた。も彼の後をついてきた。 程よい大きさの鉢が、温室の隅の棚の上に転がっていた。 「この棚の上なら日当たりもいいし、みんなに目立たなくていいんじゃないかな。 待ってて、今土や肥料持ってくるから。」 「うん、ありがとう」 背の高い彼を見送って、は微笑んだ。 リーマスが手伝ってくれたおかげで、マーガレットの鉢植えはすぐに終わった。 ひとつのことを2人でやったことで、ちょっと前までのよそよそしさも、無くなったようだった。 土で汚れた両手を見て、お互いに笑った。 「本当にどうもありがとう、リーマス。リリーが言ってたけど、あなたってほんとに優しいのね。」 「そんな、別に大したことしてないよ。」 リーマスは、この前リリーに二の腕をつねられたことを思い出して、苦笑いをした。 でもに優しいって言われて、喜ばないはずはない。嬉しくて、胸が温かくなる。 「だから、シリウスやジェームズたちと一緒にいられるのよね。なんだか納得。 シリウスが言ってたの、あいつは俺たちには甘いって。」 そう言ってフフ、と楽しそうには笑った。そんな彼女を見て、一瞬リーマスの胸がちくりとした。 シリウスと話した時間を思い出して、きっと幸せな気持ちでいる彼女。 そんなふうに、僕の前で笑わないでよ。 ああ、苦しくてたまらない。 いっそのこと、この気持ちを消してしまえたらいいのに。 (2007.11.23) 片想いって、しかも友人とその子が付き合ってるって切ない…。シリウスがなかなか書けないです。 お気に召しましたら(*^-^*)→ web拍手 back / home / next |