「やったー!」
「本当によかったわね、

自室に戻ってルームメイトの笑顔を見たら、は思わず嬉しくて涙が出そうになった。
それぐらい、夢みたいなことだったから。


神様、ありがとう。







第2話 だめもと







「まさか、まさかシリウスがOKしてくれるとは思わなかった!
 ああ、どうしよう。明日からどうしたらいいのかな?」
ったら。あー…、そういえば初めてだっけ?誰かと付き合うのって。
 最初は普通にしていればいいわよ。シリウスにリードしてもらえると思うし。」

初々しい彼女の様子に、リリーは内心、少し心配だった。
自分だってそういう経験豊富って訳じゃないけれど、一方はプレイボーイと名高いシリウスで。
はというと、グリフィンドール寮だけれど、どちらかというと臆病で引っ込み思案で、
かわいいが、シリウスと付き合うような雰囲気の女の子じゃなかった。男子生徒ともあまり話さないし。

何年か前から、彼に対して憧れに近い好意を持っていて、ずっと遠くから見ているだけで、
今回リリーとの約束がなければ、告白なんてずっとしなかっただろう。


「そういえば、リリーはちゃんとジェームズと会った?」
照れながら話題を変えるに、今度はリリーが真っ赤になった。

「あ、会ったわよ!誕生日プレゼントもらったわよ…しょうがなく。」
「しょうがなくって、随分嬉しそうだけど?」
「たまたま欲しかったものだったから!」

もう突っ込むな、という顔をするリリーに、は思わず笑ってしまった。

ジェームズとリリーは、最近ようやくまともに話すようになってきていた。まだ恋人同士でもないが。
彼の悪戯や派手な言動はおさまりつつあり、それも全部リリーに振り向いて欲しいから、というのが周囲にも分かった。
リリーはリリーで、昔から嫌いだったジェームズだが、近頃は見直してきたようで。でも素直にはなれなかった。

だから、はリリーと約束をしてしまった。
自分はずっと片思いしているシリウスに告白するから、
リリーはジェームズと、ちゃんと話してあげて、と。

は、我ながらなぜこんな約束をしてしまったのか、よく分からなかった。
なんとなく、ジェームズもリリーも応援したかったし、二人は上手くいくような気がしていた。
頑固なリリーの心を動かすぐらいのことをしたかったし、いい加減、自分の片思いにも決着をつけたかった。
忙しい7年生になる前に、少しでも自分も変われたらと思って。


だからと言って、その告白が上手くいくなんて思ってなかった。




ハンサムで、笑顔が素敵で、身のこなしも優雅で(リリーは否定するけど)、育ちがいいシリウス。
同じ寮だから、何度が挨拶ぐらいの会話はしたことがあるけど、
気さくで、優しくて、誰に対しても分け隔てなく接してくれる。こんな私でさえも。

ジェームズたちと一緒にいるときは、本当にいつも楽しそうで。
彼のそんな姿を見るのがとても好きだった。

彼と噂になったり、デートしているのは、いつも綺麗な女の子で。
やきもちなんて、大袈裟なものはなかったけど、ほんとはすごく羨ましかった。
手の届かない存在だと思った。

彼は私の憧れで、恋をしているのかもよく分からなかったけど、
シリウスがいるだけで、私はいつも温かい気持ちになれた。




だめもとだったんだ。


タイミングよく、シリウスは最近まで付き合っていたレイブンクローの子と別れたらしい。

リリーと同じ監督生のリーマスや、ピーターと一緒に歩いているときに(いつも一緒にいるから)
声をかけて、なんと私は大胆にも、シリウスだけを呼び出すことに成功した。
自分でも信じられないくらい、勇気を出して、よくやったと思う。
真っ赤になってる私に、シリウスも他の2人も、きっとびっくりしてただろう。
声も震えていて、馬鹿みたいと思っただろうか。

多分生まれてから一番、恥ずかしくて緊張していたんだと思う。



校庭の木陰へと歩くと、周囲が静かでますますドキドキしてしまう。
今までだって、シリウスと2人きりになったことはなかった。こんなに近くにいることも。
隣にいる、自分より背の高い彼を、視界の隅に捉えるだけで、ああ、男の子なんだ、と意識してしまう。

恥ずかしすぎて、見つめることはできなかったけど、
ちらっと見上げれば、目が一瞬あってしまってびっくりした。異様に緊張してしまった。

だって、本当に彼は格好よくて。整った顔立ちで、黒髪もサラサラして綺麗だし、
何より、間近で見てはじめて気付いた。瞳がとても素敵。

ああ、もうシリウスと2人で、こうして向き合えただけでも十分。
告白するなんて、もうこれ以上勇気のいることはしなくてもいいから。
この思い出だけあれば、私は幸せ。



なんて、自己完結しちゃいそうになっている私に、シリウスのほうから声をかけてくれた。


「どうした?」

「…あ、あの…」


彼の言葉に、前で結んでいた手にも腕にも、全身にも、血が上ってきて、もう熱くてたまらない。
ドキドキしていた心臓なんて、もうバクバク音を立てていて。

前言撤回。ああ、もういいじゃない。言っちゃえば。
もう十分勇気をだしてきたんだから、あとちょっとぐらいだしたらいいんだ。
どうせ、だめもとでしょう。




「好きなんです、…あなたのこと」




ああ




言えた!







返事なんて怖くて聞けないと思ってたのに、言ってしまったら、なんだか
彼が私のことどう思ってるのか、それがとても気になってしまった。



「…それで?」

「えっ」



そうシリウスに聞かれて、思わず驚いて彼の顔を見上げてしまった。
ああ、そうだ。普通はこの先があるのか…って後から気付いた。馬鹿みたい。


真っ赤になっている私に、シリウスは面白そうに笑ってくれた。
初めて私だけに向けられる笑顔。すごく、嬉しい。


「俺と付き合う?」

「えっっ!」


まさか彼のほうから言ってくれるとは思わなかった。


「付き合いたくないの?告白だけ?」

驚きで固まっている私に、追い討ちをかけるようにシリウスが言った。
私は咄嗟に首を横にふって、

「付き合いたい」

と小さい声で告げた。



それを聞いたシリウスは、嬉しそうな笑顔になる。
私もつられて微笑んだ。
よかった、嫌がられなくて。


……って何?!

私、シリウスと付き合うことになったの?!


「よろしくな、


「う、うん」




相変わらずの私に、またシリウスは面白そうににやっと笑って、
私の額をこつん、と指で押した。

触れられた部分が熱くて、恥ずかしくて、もうどうしようかと思った。


信じられない。



こういうことも、あるんだ。
それから自分の部屋に戻るまでの記憶はほとんどなかった。


嬉しくて、しばらく今日は眠れそうにない。













(2007.11.15) この子ったら、めちゃくちゃ憧れてるのね…。シリウス描くの難しいです。


お気に召しましたら(*^-^*)→ WEB拍手 web拍手


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