「…スネイプ先生」

ルーピンが去ったままの状態で、開け放たれていたドアのことを忘れていた。
ドアの向こう側から、ゴブレットを持ち、訝しげにを見つめるスネイプ。
慌てては、持っていた地図を丸め、両手に持ち直した。それが無駄な行為だというのは承知で。




Believe in you.

第36話 対峙





「ルーピンはどうした?」
「急に生徒に呼び出されて、たった今出て行きました。」

なるべく普段と変わらない装いで、は静かに答えた。
スネイプの視線はの目から、彼女の手元に移る。

「何を持っている?」
「これは…、ただの羊皮紙です。」

は何と言ったらいいのか分からなかった。
その答えを聞いて、ルーピンの部屋へと足を踏み入れたスネイプは、面白そうに口角を上げた。

「ほう、前にもどこかで聞いた台詞だな。…ただの羊皮紙、か。」

ゴブレットを手前にあった低い棚の上に置くと、彼はその手をの目の前へ差し出した。
眉を寄せて、彼の手を見つめ、それからスネイプを見上げた

「見せてみろ。ただの羊皮紙なら我輩に見せても問題はなかろう。」
「…いいえ、借りたものですから、勝手にお見せすることはできません。」
ぎゅっと地図を握り締めて、は後退った。
スネイプはそれを追い詰めるように歩を進め、ローブから杖を取り出した。

「往生際の悪い奴だ。」
「あっ、…っ、」
彼が杖を振ったのと同時に、羊皮紙が青い炎に包まれた。
指先に感じた炎の熱さで、はその手から忍びの地図を落としてしまった。
急いで彼女が床に落ちた羊皮紙に手を伸ばそうとした時、再びスネイプが杖を振り上げた。
一瞬のうちにその羊皮紙は、彼の手元に渡った。

杖を突きつけられている状態のは、スネイプがどういう反応を示すか様子を伺っていた。
彼はしばらく忍びの地図に目を落とし、その後視線を上げ、を見た。
今までにしたことのない、彼女を軽蔑するような眼差しで。

「スネイプ先生!聞いてください、ブラックは犯罪者なんかじゃなかったんです!」
彼の表情を読み取ったは、慌てて訴えた。
スネイプは頷き、呆れたように呟いた。

「お前には幻滅した。騙されているにせよ、分かっていて協力しているにせよ、変わらぬことだ。
 どこまで愚か者なんだ、。」
「先生!私は騙されてなんかいません!」
「我輩があれだけ忠告しても、お前は一度も聞き入れなかった。
 あの人狼がブラックの手引きをしているのに、お前はそれを見逃した。
 それがどういうことか分かっているのか?」

低い声で忌々しげに言い放つスネイプ。の顔が悲しそうに歪んだ。
「聞いてください、先生、」
「これが最後だ、
 おとなしくここで待っていろ。そうすればお前の罪はそこまで重くはないはずだ。」

の声を遮り、スネイプは彼女の手に地図を押し付けると、部屋を出て行こうとする。
どうすれば信じてもらえるのか。今のスネイプには誰の言葉も聞こえないだろう。
はローブから咄嗟に自分の杖を取り出していた。



バタンッ

大きな音を立てて、スネイプの目の前のドアが閉まった。
少し驚きつつも、彼が振り返ると、がスネイプに杖の先を向けていた。

「…何の真似だ?」

「どこへ行くおつもりですか?」

は張り詰めた声で、真っ直ぐスネイプを見つめながら言った。

「分からんのか?奴らを捕らえに行くのだ。そのまま吸魂鬼に引き渡せばことはすぐおさまる。」
「先生はっ、先生は間違っています!」
「…何だと?」
スネイプの目が一層細められ、口元がひきつった。の杖先は微かに震えていた。

「ブラックが無実だという証拠だってあります!
 一人の、無実の人間の命がかかっているのに、どうして聞いてくれないんですか?!」
「馬鹿馬鹿しい!ブラックが無実だろうとそうじゃなかろうと、我輩には関係ないことだ。
 奴にはアズカバンこそがふさわしい。ブラックを捕らえるのが我輩であれば、尚良いだろうな。」
「な、何を言って…」

言いながら不気味な笑みを浮かべるスネイプに、は愕然とする。

「お前のその"正義"とやらにはうんざりする。それで何でも善悪を判断できると思ったら大間違いだ。
 一方的なお前の価値観で決められるほど、物事は易しい訳ではない。」
「……」
の顔は今や蒼白だった。彼はそれを気にした様子もなく、言葉を続けた。
「どうした、先程から杖を向けたままで。無抵抗の者に手は出せんか?」

スネイプが下ろしていた自分の杖を上げようとした瞬間、の杖先から白い閃光が走った。
スネイプ目掛けて放たれたそれは、彼の右肩を直撃した。
一瞬よろめきながらも、瞬時に手に持った杖を掲げたスネイプは、同じように杖先から呪文を放った。
二つの力が鬩ぎ合うようにバチバチとぶつかった。
しばらくして、押し勝ったのはスネイプのほうだった。

カランカラン、との杖が床に転がり、彼女は胸を抑えながら膝をついた。
押し負けたことによって、スネイプの呪文が正面からぶつかったのだ。

苦しそうに肩で息をしているの眉間に、スネイプは杖を突きつけた。

「…いいだろう。そんなにルーピンがいいのなら、お前たちまとめて吸魂鬼に突き出してやろう。」


は視線を床に落としながら下唇を噛み、胸元に置いた拳を握り締めた。
スネイプが、どんな気持ちで彼女を見下ろしていたかは知らずに。















(2007.10.17) 慌しいですが。アクションを書くとなんか迫力がないですね…


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