やっぱり、あの犬がそうなのかもしれない。

以前から薄々ひっかかっていたけれど、そう考えれば考えるほど、
何もかも上手く説明がつきそうだったから。

リーマスがあの屋敷から私を遠ざけたのも、
彼から私を遠ざけたかっただけなのかもしれない。

もしそうだったとしたら、リーマスは何を考えているんだろう。
スネイプ先生が言っていたことが正しいの?
まさか、そんなはずはない。

(…友人だと思っていた。)

それとも、どこかでまだあの人のことを信じているんだろうか。
大罪を犯して脱獄した人を。

私は、このまま黙っていていいの?
こんなことしていていいの?



また今日も同じようにフィッチにかごを持たせると、はため息をついた。
それでも目に浮かぶのは、今にも息絶えそうな、とても寂しそうなあの黒い犬だった。



Believe in you.

第26話 忍びの地図





その日は土曜日だったが、がスネイプの部屋へ勉強をしに訪れると、ちょうどよく扉が開いた。
中から珍しく難しい顔をしたルーピンと、ハリーとロンも一緒だった。
3人は軽くに挨拶をして、すぐにその場を去ってしまう。
恐る恐るスネイプの部屋へが入ると、案の定彼はご機嫌斜めで追い返されてしまった。

しょうがなく来た道を戻ると、大広間でルーピンがハリーたちに話していた。
いつになく真剣な表情で、は初めてルーピンが生徒を叱っている姿を見た。

「―君のご両親は君を生かすために自らの命を捧げたんだよ、ハリー。
 それに報いるのに、これではあまりにお粗末じゃないか―」

ハリーはルーピンがそこから立ち去った後、下を向いて少しの間落ち込んでいた。
ロンが気遣わしげに彼の背を押して、2人は談話室のほうへ歩いていった。





「君が来るのが見えたんだ。」

がルーピンの部屋の扉をノックしようとすると、その寸前に扉が内から開かれた。
驚いたけれど、少し呆れたような彼の表情に、は来なければよかったかな、と思った。

「見えた?」
「そう、ハリーから預かったこの地図でね。」

部屋に入ると、ルーピンはヒラヒラとさっきも手にしていた古めかしい羊皮紙を見せた。
が興味を示すと、彼は彼女の前にその地図を広げた。
紙の上にホグワーツの城内とその周辺の地図が記されていて、さらには人の名前がふわふわと移動していた。
は目をしばたかせて、ルーピンを見上げた。

「…すごい」

思わず本音が出てしまって、それを聞いたルーピンは少し微笑んだ。

「これにはこの城にいる者の行動が全て分かるんだよ。どこにいるのかって。
 さらにはたくさん抜け道があるしね。」
「え!!…それじゃあ私があなたの部屋にいたことも知られていたんですか?」
「…まあ、必要なときにしか見ていないと思うんだが…」

突然真っ赤になって慌てたを見て、困ったように笑うルーピン。
彼女は気付いてないけれど、ハリーはに憧れているようだから、分からない。
はまた視線を地図に戻すと、「あっ」と小さい声をあげた。

『…この暴れ柳のところ、あの屋敷につながってるわ…』

やっぱり、と心の中でが呟くと同時に、ルーピンが言った。

「私を疑っているんじゃないか?」
「え?」

ぱっと顔を上げたの目に、彼の寂しそうな瞳が映った。
は必死に首を横に振って否定した。

「違います、疑ってなんていないんです。
 でも、ひとつひっかかっていることがあって。ブラックは、あの黒い犬なんじゃないかって。
 …私の考えていることはあっているんですか?」

恐る恐る問いかけると、ルーピンは一瞬顔をこわばらせて、それからため息をついた。

「私のせいなんだ。私が、人狼だったから…、彼らは私と一緒にいるために動物もどきになってくれた。
 君が考えていることは正しいよ、。」


それから、ルーピンはホグワーツに学んでいた頃の友人たちの話―
彼らを動物もどきにしてしまったこと、満月の夜はみんなで冒険に出かけたこと、
そして忍びの地図をつくったこと、大人になり友人を失い、裏切られたことをに話した。

最後にダンブルドアにブラックが動物もどきであると伝えるかどうか、迷っていると言って。
は伝えるよう進言することはできなかった。
自己嫌悪に歪む彼の表情を見て、はそっと座っている彼の手を握った。

「情けない、私は最低な臆病者なんだ」
「リーマス、そんなことない、誰だって自分の身は守りたいわ。
 しょうがないことだから、…だからそんなに自分を責めないで」


振り向いた不安そうなルーピンに、は優しい眼差しを返した。

「あなたの気持ちが決まったら言えばいいと思うんです。」


『それに、私にはブラックがハリーに危害を加えようとしているとは思えないから…』


ルーピンを抱きしめながら、はどうかこの先、何も起きませんようにと
願わずにはいられなかった。














(2007.7.15) 叱っているルーピン先生が好きです。


お気に召しましたら(*^-^*)→ *web拍手を送る


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