Believe in you.

第24話 悪夢





それは、雷鳴が響くある夏の晩だった。
避暑に訪れていた別荘の一帯は、厚い雨雲に覆われていて、外は真っ暗だった。

雷の音が大きくて、怖くてなかなか眠れなかった。
2階の部屋でブランケットをかぶって、動く絵本を一生懸命集中して見ていた気がする。

突然、大きな雷鳴とともに部屋の蝋燭が消えて、真っ暗になって。
驚いた私は大きな声で母と父を泣きながら呼んだ。
それと同時に1階からとても大きな轟音と、母の私を呼ぶ声が聞こえた。
薄明かりの中で血相を変えて走りあがってきた母は、私を抱きしめると部屋の扉を閉め鍵をかけた。
ガタガタと震えうずくまる母の腕の中で、私は訳も分からずただ怯えた。

父は大丈夫だろうかと思っていると、私たちの部屋に何かが近づいてくる足音が聞こえて、
それに、多分父の足音も聞こえた。
父が何かを叫んで、大きな音が何度も聞こえて、ドアの隙間から明かりが漏れた。

やがて、耳を塞ぎたくなるような、人の断末魔の悲鳴が聞こえて、私はその得体の知れない恐ろしさに竦み上がった。
バリバリ、と部屋のドアが破られ、何かが部屋に入ってきた。
ベッドの陰に隠れていた母は、私を力強く抱きしめて、私の口をふさいだ。
父ではない何かの影は、私たちのすぐ横まで伸びてきて、
そして、私は見てしまった。

大きな、その獣の姿を。


それが私たちの姿を捉えると同時に、部屋の入り口から父の最期の声が聞こえて、目の前が真っ白になって。
その獣はものすごい悲鳴をあげて、崩れ落ちた。
一瞬何が起きたのか私は分からず、眩しさがおさまり目を開けると、横たわった獣は人の姿へと変わるところだった。
私たちの目の前で、その人は息絶えた。

そして同時に、私は父を失った。









声にならない声をあげて、ベッドから跳ね起きた。
は息を整えようと、呼吸を繰り返す。真冬だというのに、冷や汗が額や背に伝う。

「もう、やだ…」

顔を手で覆うと、ベッドの上で丸まった。

2月の雪が、暗闇の中を舞っていた。








ルーピンはノックの音に目が覚めて、眠気眼のままドアへと向かった。
パチパチと、暖炉の薪が燃え上がる音と、外の風の音だけが部屋に響いていた。

?」
「ごめんなさい、こんな夜分遅くに…」

ドアを開けると、少し疲れた表情のが、寝間着の肩に薄い上着をかけて佇んでいた。
もうとっくに時計の針は深夜を回っていて。いつもと違う彼女の様子に眉を寄せるルーピン。
今にも消えてしまいそうな儚い彼女の肩を抱き、とりあえず部屋に入れると、はほっとため息をついた。

「大丈夫かい?顔色が悪いけど…何か飲む?」
「大丈夫です、何でもないんです。」

顔を覗き込むようにして心配してくれるルーピンに、は少し遠慮がちに言った。

「あの、隣で寝させてもらえませんか?嫌な夢を見て…」

いつもならまた子供扱いしているところだが、ルーピンは優しく微笑んで頷いた。





雷の日以外は、滅多にあの時の夢を見ることはなかったのに。
なぜ最近になってよくあの夢を見てしまうのだろう。
ずっと思い出さなかったのに。自分の中では、その記憶に目を向けるのも嫌だった。
閉じ込めていたかった。

あの夢を見るたび、あの時目の前で倒れた人を、リーマスと重ねてしまいそうになって
そんな自分が本当に嫌だった。その度に首をふって、自分に言い聞かせた。

あの人はリーマスじゃない。
リーマスじゃない。




またが体を震わせると、なだめるようにルーピンは彼女の背中をさすってあげた。
その優しさと温もりが、次第に冷えたの体に伝わってくる。
は自分の表情を隠すように、横になっている彼の胸に顔をうずめて、その背を抱きしめた。

「ずっと側にいるから、ゆっくりおやすみ」

優しい声音でそう囁かれて、はそっと安堵の涙を流した。



あなたが好き。

この気持ちは偽りなんかじゃない。
あなたのためだったら、きっと私は強くなれる。

自分の弱さのために、失いたくない。
やっと見つけた大切な人だから。

あなたの全てを受け入れられるぐらい強くなるから。

だから

もうあんな夢を私に見せないで。















(2007.6.25) はっ、こうしてまたすぐに問題が…


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