Believe in you.

第21話 告白






を泣かせるなんて、もうしたくなかった。


私だって男だから、彼女の全てを手に入れたいと思ったことは何度もある。
でもそう思い通りにはいかない。
私には、問題があるから。
だから、彼女をいまだに騙し続けている。その資格がないんだ。

に抱きつかれて、あの言葉を聞いたとき、
自分でも信じられないくらい、よく理性を保てたものだと思った。
本当は私だって、彼女を抱きしめたかった。
とても愛しくて、彼女を私の腕にしまいこんで、離したくなかった。
しかし、その代わり口から出た言葉は、彼女を拒絶するものだった。

涙を流す彼女の背中を見て、私はなんて愚か者なんだろうと思った。
いつかはこうなる時がくると、分かっていたのに。



は私が人狼であることを知っていて、
私が彼女を騙し続けることで、そんなにも悩み傷ついていたなんて、その時は知らなかったんだ。
私は、自分の苦しみだけしか考えることができなくて、深く彼女を傷つけていた。

こんなにも、愛しい人なのに。










「…!」

後を追って駆けてきたルーピンに呼ばれても、床に崩れ落ちて泣いているは振り返りもしなかった。
びくっと肩を一瞬震わせただけで、そのまま声を押し殺して泣いている。
ルーピンは彼女の姿を見て、胸がしめつけられて、苦しくて、
そんなふうに彼女をしてしまった自分が憎くて、罪悪感でいっぱいだった。

「…来ないで…っ」
足音が近づくと、は震える声でそう吐き出した。は顔を覆う自分の手が、ひどく震えるのに気付いた。

ああ、もう嫌だ。私はあなたにあわせる顔がない。
こんなひどい顔見られたくない。
こんな醜い感情を曝け出したくない。

そう望んでいるのに、彼の足音はどんどん近づいてきて。逃げ出したいのに、体がもう動かない。

ルーピンの足音が真後ろで止んだかと思うと、
は突然強い力で立たされて、一瞬その場でよろめいて、後ろから抱きしめられた。
冷え切ってしまった肩や腕に、温もりが広がる。

ルーピンに抱きしめられているのだと分かると、はその腕を振り解こうとしたが、強い力にそれは敵わなかった。

「…は、放してください…」
、」
「もう、優しくしないで…」
、聞いてくれないか」
「私、あなたの気持ちが分からなくて、苦しいんです…っ」

ルーピンの袖にポロポロと涙をこぼすを、彼は苦い表情で見下ろしていた。
彼女の表情は見えない。

「君を失いたくないんだ。…だから、ずっと言えなかったことがある。
 でも、君にこんな思いをさせるなら、もっと早く言うべきだった。
 私を拒絶するのも、受け入れるのも、君次第だというのに。」

耳元で囁かれたルーピンの声は、低く、今まで聞いたことのないぐらい、はりつめていた。

「私は、」


―こんなかたちで、言わせてしまうなんて。







「人狼なんだ」










そっと、冷たい指先でルーピンの腕がほどかれた。
はゆっくりと振り返り、何も言わずに涙に濡れた瞳で、彼の混沌とした瞳を見上げた。

「…私、知っていました。」

一瞬、大きく彼の目が見開かれた。

「ごめんなさいっ、ごめんなさい…!」

震える手で、ルーピンのローブを掴む

「でも、…私はあなたに、信じてもらいたかったんです。
 いつも、あなたは寂しそうな目をしていて、私がいてもずっとそうで、
 私は、あなたに心を開いてもらえないと思って、どうしたら信じてもらえるのか分からなくて…、」

はまたポロポロと涙を流してしまう。

「あなたが、一人で苦しんで悩んでいるのは見たくないのに、距離を置かれている気がして、
 …私にはっ、どうすることも、力になることもできないんじゃないかと思って…っ」

震えながら、涙を流しながら話す彼女を、今にも泣き出しそうな顔で見つめるルーピン。

「人狼であるとか、関係ないんです。
 私は、あなたが好きだから、ただ信じて打ち明けて欲しかった…。あなたの力になりたかったの…っ」

「……」

の頬を、ルーピンは恐る恐る自分の両手で包み込む。尊い彼女の涙を、そっと優しくその指で拭う。
とても、愛しいものを見る眼差しで、彼女のまっすぐな瞳を捉える。

「君を信じていない訳ではなかったんだ。遠ざけたくもなかった。
 ただ、本当に君を失いたくなくて、私は臆病だから、人狼であることをずっと言えなかった。
 への気持ちが強くなればなるほど、怖くて、言い出せなくなったんだよ。
 優しい君なら受け入れてくれると、期待する気持ちもどこかにあった。
 でも君をそんなに苦しめていたなんて、気がつかなかったんだ。」

「…リーマス」

「すまなかった。もっと早く私が言っていれば…」

「いいえ、私こそ…ごめんなさい。
 自分の気持ちしか考えられなくて…。それに、」

はルーピンのローブを握る手に、ぎゅっと力をこめて微笑んだ。

「話してくれて、ありがとう」

彼女の瞳にやっと輝きが戻ってきたので、ルーピンも優しく、ふわっと微笑み返した。
の体は、また強く抱きしめられた。


「君を愛しているんだ。
 こんな私でも、側にいてくれるかい?」


背中に回された腕が、かすかに震えている。
嬉しくて、リリアの瞳からはまた涙が溢れ出した。
それは、初めて彼から聞いた、愛の告白だった。


「はい」


今度こそ、彼の本当の笑顔が見れた気がした。



輝く星空の下で、

お互いの温もりを確かめ合って、

静かなイヴの夜は更けていった。













(2007.6.9)


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