今までよく命を落とさなかったな、と不思議でならない。
そのぐらい、彼女は危機感がない無鉄砲な人だ。

グリフィンドール生のように、ある意味勇敢で好奇心旺盛だけれども、
自分の身を省みず、何かに突き進んでしまう。
初めて出会った汽車でも、生徒を殴った事件でも、
ハロウィンでシリウスと出会ったときも、魔法薬を勉強しているときも。

私はその性格がいつか命取りにならないかと、不安でしょうがなかった。




Believe in you.

第19話 叫びの屋敷





なぜ、こんな場所に彼女が向かったのか分からなかったが、ルーピンは荒れ果てた建物の中へ足を踏み入れた。
本当は二度と来たくはなかった場所だ。
パチパチ、と暖炉のほうで音がしたので近づくと、暖炉の前で腰を下ろしているの背中が見えた。
そして、その隣にいるのは―…

ルーピンが驚いて声も出せず、すくんでいると、その黒い犬は立ち上がり、低い唸り声を上げて彼を睨み付けた。

「ルーピン先生?!」

それに気がついて、もはっとして振り返ると、ルーピンと視線が合った。
彼はすぐに、厳しい顔をした。

「すみません。すぐ帰るつもりだったけれど、この犬があまりに弱っていて心配で…」
、」
ルーピンの目は、チラリと黒い犬に一度向けられ、またに戻される。

「君が急に出て行ってしまうから、急いで後をつけてきたんだ。
 ここは気味が悪いから、早く出よう。さあ。」
せかすようにの手をとって立ち上がらせると、まだ警戒している犬から彼女を引き離すように歩かせる。
「ごめんね、また来るから!」
心配そうな視線を犬に残すと、はルーピンに手をひかれてその部屋をあとにする。

ルーピンは、最後にもう一度だけ振り返り、昔の友人を見つめた。

シリウス・ブラックも、ただじっと2人を見つめていた。






「もうあの屋敷に近づくのはやめなさい。」

いつの間にか吹雪がおさまって、雪がちらちら降り続ける中を、2人は歩いていた。
ルーピンにつながれた右手がとても温かいなんて、はぼんやり考えていた。

「でもあの犬、今にも死んでしまいそうでした。
 あんな屋敷で一人きりなんて…寂しいじゃないですか。」
「…そうだね。君は優しいな。」

立ち止まってを見下ろすルーピンの瞳には、また切ない色が浮かんでいた。
空いているほうの手で、彼女の頬を軽くなぞるルーピン。とても冷たい指先だった。
「泣いていたのかい?」
「最近なんだか涙もろくて。」
どうして泣いていたの?と聞いても、は首を横に振るだけだった。

「私は君のおかげで、心配性になってしまうよ。
 、約束してくれないか?」

真剣な瞳に見つめられて、は動けなかった。

「もう今までのように、自分から身を危険にさらすようなことはしないと。
 何かあったら、私が力になるから。君が危険を冒して傷ついたりするのは見たくないんだ。」

切実な瞳から、つながれた手から、その言葉から、彼の自分に対する想いが伝わってきた気がして。
は頬を染めて、心から嬉しそうに微笑んで頷いた。

「はい、約束します。」
「人が真剣に言ってるのに、なぜそんなに嬉しそうなんだい?」
「嬉しいからですよ。」

そう言ってがルーピンの胸に抱きつくと、彼はしょうがないといった顔で微笑んだ。

「ありがとう、リーマス」







シリウスがアニメーガスだということは誰にも言えなかった。
それはダンブルドアの信頼を裏切ることにもつながるからだ。
それに、心のどこかでは、まだ彼を信じていたのかもしれない。

でも、を守るためだったら、

私は全てを失ってもいいと

そう思った。















(2007.6.1) いつの日か疑いが晴れて再会した友を、きっとルーピン先生は笑顔で蹴飛ばしちゃうのです。


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