学期が終わった週末、生徒たちは開放感でいっぱいではしゃいでいた。
もう休暇に入るので、最後とばかりに上級生はホグズミードでたくさんの買い物をしたり、
友達とお喋りをしたり、どんな休暇を過ごすかで頭の中がいっぱいだ。

その日は、雪が降り積もり、辺り一面銀世界だった。
寒い中、みんな帽子やマフラーで着込み、賑やかにホグズミードへ出かけていく。

「ハリー、どうしたの?あなたは行かないの?」

ロンとハーマイオニーに別れを告げて、大広間近くの廊下を歩いている時だった。
生徒たちと同じように温かい服装をしたが、ハリーの前方から声をかけた。

「はい、許可証がないので行けないんです。」
「そうなの、それは残念ね。あ、私あなたの保護者の方に手紙書きましょうか?
 せっかく3年生になってチャンスがあるのに…」
「いいえ、いいんです!ありがとうございます。」
にこやかに微笑むを前に、ハリーは頬を赤くして首を振った。

「…そうなの。じゃあ何かお土産買ってきますね。楽しみにしてて!」

ハリーの肩をとんとん、と軽く叩くと、は玄関へと向かった。
ちょっとした寂しさを抱えながら、ハリーも談話室へ戻った。




Believe in you.

第18話 黒い犬





「はぁ、素敵!」

白い息を吐きながら、は目を輝かせた。
まるで物語の中に出てくるような、懐かしいホグズミードの冬景色。
家々はクリスマスムード一色で、屋根に積もった雪、飾られたイルミネーションがキラキラしている。
クリスマス好きのにはたまらない。

「それにしても寒いですね。風邪ひいてしまいそう!」
「そうだね、どこかの店に入ろうか。」

ルーピンとは、2人でホグズミードの街中を歩いていた。
が倒れた翌日は少し気まずかったものの、すぐにいつも通りの2人に戻ることができた。
それに、ルーピンに脱狼薬のことがばれていなかったことに、はほっとしていた。

2人で一緒にいられることに幸せを感じられた。お互い、一緒にいる今は余計なことを考えないで済む。
ふと、が立ち止まって、あちこちに同じようにある張り紙を見つめた。

「まだこの辺りにいるのかしら…」
の視線の先の、シリウス・ブラックの張り紙を見て、ルーピンは顔をしかめた。
「先生、スネイプ先生と同期だったんですね。この人もそうだと聞きましたけど、ご存知でした?」
「…ああ、同じ寮だったから。…友人だと思っていた。」
ルーピンが一瞬ためらったのを気にする様子もなく、はぽつりと呟いた。

「なんだか、悲しいですね。友達なのに…」




だんだんと吹雪いてきて、外を歩く人が少なくなってきたのとは反対に、ハニーデュークス店内は人でごった返していた。
並べられている懐かしいお菓子を手にして、も楽しい気分になる。
ピンクのココナッツ・キャンディーの袋を手にして、彼女が嬉しそうに横を見上げると、
「あらら」
隣にいるはずのルーピンは、店の奥のほうで女生徒たちにつかまっていた。
『男の先生は大変ね。』
肩をすくめてまた棚に視線を戻すと、背中のほうで「ハリー!!」という誰かの声が聞こえた。

『ハリー?』
気になって振り返って声のしたほうを見たが、人の頭でよく見えない。
『ハリーが来れる訳ないわよね…』
しばらくが視線を彷徨わせていると、ドアが開いて誰かが店から出て行った。
赤毛のロンと、ハーマイオニーが見えたような気がして、は眉を寄せる。

「ルーピン先生、ちょっとここで待っていてください!」
ざわめきの中での声に気付いたルーピンは、驚いて顔をあげた。
はそれを確認する暇もなく、出口へと向かった。



外に出ると、ますます風と雪が強まって、寒くて視界が悪かった。
辺りを見回したが、すでにロンたちの姿は消えてしまっていた。
『気のせいだった?』
吹雪く景色の中が目を細めると、ふと、視線の先に真っ黒いものを捉えた。
白い世界の中に、ぽつんと道の先で佇んで彼女を見つめている。

「あの犬…!」
は一瞬、ルーピンのいる店を振り返ったが、その犬が走り出してしまったので後を追うことにした。




『"叫びの屋敷"?』

雪の中走ってきたものだから、息もきれぎれには目の前の建物を見上げた。
呼吸をすると、肺の中に冷たい空気が入ってきて苦しかった。まさかこんなところに来るとは思わなかった。
が在学中もホグズミードの名所になっていた建物だ。
誰も住んでいないのに、夜になると叫び声が聞こえるといって誰も近寄らない場所。現にも近づいたことはなかった。

玄関の扉を恐る恐る開けると、廃れた薄暗いホールが目に入る。
外の吹雪のせいで、ぎしぎしと家が呻いているようで。
そこから続く部屋へ行くと、床や壁にはそこらじゅうに染みやキズがあったり、穴が開いていたり。
家具もあるがどれも壊されていてボロボロだった。ひんやりとした部屋の空気に、はぞくりとした。

その大きな黒い犬は、火のない暖炉の前でブルブルと体の雪を振り落としていた。
はそれを見て、少しほっとした。幽霊がいると聞いていた場所だが、今目の前にいるのは命のある犬だ。
彼女が近づいても、その犬は警戒することもなく、力なさげにその場に座ってを見上げた。

「あなた、ここに住んでいるの?」
が聞くと、犬はワン、と弱々しげに答えた。
「まあ、賢いのね。私の言っていること分かるみたい。」

よく見ると、その犬はやせ細っていて、今にも息絶えてしまいそうだった。
が杖を取り出し、暖炉に炎を灯すと、部屋の中は温かい色に変わった。
「こんなものしか今はないんだけど、」
と言いながら、彼女は黒い犬の目の前に、水の入った皿とアップルケーキが載った皿を出した。
ケーキをちぎってやると、犬はワン、とお礼を言って食べ始めた。

「こんなところに一人でいて、寂しかったでしょう。」
はその犬の横に腰掛けて聞いてみたが、食べるのに夢中で返事はないようだ。


荒れた薄暗い部屋の中、まるで外界と隔てられたような場所で、ただ一人ぼっち。

きっと孤独でたまらない。
私はきっと耐えられない。

そしてふと思い浮かんだ、大好きな人の顔。


彼もまた満月の夜に、ただ一人だけで、その孤独に耐えてきたんじゃないだろうか。
寂しくて、悲しくて、苦しかったんじゃないだろうか。


今見ている景色が、彼が見ていた景色と重なっているような気がして、
は言い知れない寂しさで胸がいっぱいになる。
最近、自分でもどうかしてると思うけれど、また涙がこみあげてくる。


「…やっぱり、あの人の側にいたい。」















(2007.6.1) 中途半端に他のキャラを絡ませてしまいます(汗。


お気に召しましたら(*^-^*)→ *web拍手を送る


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