彼の秘密を知ってしまったけれど、
実のところ、私は思ったよりショックを受けなかった。
むしろ冷静なほうだった。

まだ彼のその姿を見たわけでもないから、想像がつかない。
だからその事実がまだ信じられないのかもしれない。

彼の正体は、私が最も恐れているものなのは確かだけれど。
彼を受け入れるって、どういうことなんだろう。
私にはそれができる?

彼がもし、私を信頼してその秘密を打ち明けてくれたら嬉しい。
私はそれまで待ちたいと思った。
でもその時、私はどうしたらいいんだろう。
受け入れるといっても、簡単にはいかない気がする。

私はまだ自分の恐怖を克服できていないのに
どうしたら、彼の全てを受け入れることになるんだろう。


彼のために私ができることは、何?




Believe in you.

第12話 嵐の中のクィディッチ





次の日の土曜日、全校生徒や先生たちが待ちに待ったクィディッチ戦が催された。
グリフィンドール対ハッフルパフの試合は、ひどい雷雨の中行われることになった。
そんな天候なのに、熱狂するクィディッチの試合には、みんな傘やらレインコートを着て出かけた。

も教え子が出ているし、実は出身寮のハッフルパフの応援もしたいので競技場へ向かうことにした。
途中でルーピンの事務室に寄るのを忘れずに。

「すまないね、本当は私も行きたいんだが…」
「いいえ、そんな顔色をした人が行っても、風で吹き飛ばされるか本当に風邪をひいてしまいますよ。
 だからゆっくり休んでください、ね?」

それでも事務室で仕事をしようとするルーピンを無理やり寝室に押しやり、は暖炉に火をつけてやった。
彼が着替え終わってベッドに入ったのを確認すると、
も寝室の中に入りサイドテーブルに暖かいティーセットを出した。
そんな彼女の様子を見ると、ルーピンはぽつり、とつぶやいた。

「情けないな。」
「え?」
「いや、なんでもない。」

小さい声だったので聞き取れなかったらしく、は不思議そうな顔をしてルーピンを見た。
彼は、少し寂しそうな表情をして暖炉の火をぼんやり見つめていた。

「ルーピン先生、私、」
「ありがとう。もうそろそろ時間じゃないか?行っておいで。」

そこを離れるのをが躊躇していた矢先、ルーピンが彼女の言葉をさえぎるようにそう言って微笑んだ。
それは優しい微笑だったけれど、には本当に彼が笑っているように見えなかった。
胸がチクリとして、のほうはいつものように微笑み返すことができなかった。
どこかで、拒絶されているような気がしてしまったのだ。

「じゃあ、お休みなさい」
ルーピンの手を一度きゅっと握ると、は静かにドアを閉めて出て行った。

しばらくして、ルーピンははぁ、とため息をついた。



今、自分はどんな顔をしていたのだろう。
を困らせてしまうのは分かっていながら、側にいて欲しいと思ってしまった。
彼女を初めて抱きしめたとき、随分と久しぶりに、何年ぶりかに、人の温もりを感じた。
それが今でも忘れられないのだ。先程握られた手も、まだ温かい。

いつかは手放さなければならないかもしれないのに。

自分の正体を隠し続けて、を騙し続ける罪悪感を抱えながら
彼女の側にいることは許されないのだろうか。

彼女に全てを打ち明ける勇気が、まだないんだ。

私は臆病者だ。








クィディッチの試合は、まともに選手たちやスニッチ、ブラッジャーを見ることができないくらいひどい悪天候だった。
たまにピカッとあたりが光り、雷鳴がとどろいた。
それでも生徒や先生方は歓声をあげて熱狂した。特にハリーとセドリックの飛行は見ものだった。
はジョンや生徒たちがこの天候で怪我をしないかどうか、ハラハラと試合を見守った。

ふと、は先程のルーピンのことを思い出して、また胸が痛んだ。
寂しそうな彼の表情に、自分の知らないところで彼がたくさん苦悩している気がして。
そして、まだ心を開いてくれていないのだと。

「なんてことじゃ!!!!」

ばっと前列で試合を観戦していたダンブルドアが急に勢いよく立ち上がり、ピッチの中に走っていった。
一斉に観客のどよめき、悲鳴が聞こえ、もはっと意識を戻した。

ハリーが急降下して地面にぶつかるところだった。

「っ!!!」
思わず視線をはずして顔を覆ってしまった
次に視線をピッチに戻したときには、ハリーは地面に横たわり、
ダンブルドアが上空を飛ぶたくさんの吸魂鬼に向かい、杖先から守護霊を出して彼らを追い払っていた。


こんなことがあったのに、試合はセドリックがスニッチをとったことでハッフルパフの勝利のうちに終わった。
はざわめく生徒たちを落ち着かせながら、競技場から出るよう誘導していた。
そして観客席を見渡したとき、はっとした。

大きな、黒い影のような犬が、誰もいなくなった観客席の出口から出て行くところだった。

「あの犬…?」

それは、シリウス・ブラックがホグワーツへ忍び込んだ夜
階段から落ちた後、霞む意識の中見た犬に違いなかった。













(2007.5.19) センチメンタル・ルーピン(汗


お気に召しましたら(*^-^*)→ *web拍手を送る


back  /  home  /  next