シリウス・ブラックがホグワーツに侵入し、さらに吸魂鬼の警備が強化され、
の事情聴取を終えたダンブルドアはいささか疲れているようだった。

ハロウィーン後数日間、は授業をあえなく休み、病棟で過ごした。
怪我の功名というべきか、たくさんの生徒たちが見舞いに訪れてくれたので、
はとても嬉しかった。ブラックの話で持ちきりだったけど、毎日とても賑やかな病室だったのだ。
マダム・ポンフリーが生徒たちに注意して追い出さなければもっとよかったのだが。


そして、にとって素晴らしい出来事がもうひとつ。

彼女が憧れている相手、リーマス・ルーピンと、思いが通じ合ったことだ。

彼はが病棟で過ごしている間、一日の始まりと終わりに、必ず様子を見に来てくれた。
それだけだって、にしてみれば心が躍るほど嬉しかったのに。
その場に生徒がいなければ、ルーピンは軽いキスもしてくれた。
突然訪れた甘いひと時に、は少女のように胸をときめかせていた。




Believe in you.

第11話 秘密





『今日は一緒に朝食が食べれると思ってたのに』

が退院した次の日の朝、教職員テーブルを見渡して彼女はため息をついた。
席がたまたま隣だったルーピンと、食事をとることが以前は当たり前になっていたけれど。
どうやら入れ違いで、今度はルーピンが調子を崩してしまったらしい。
最初に会ったときから、病気がちな印象を受ける人だったが、
抱きしめてくれたときには、意外と逞しい気がしたのを思い出して、は少し頬を染めた。




先生、分からないところがあるので教えていただけませんか?」

気持ちのよいノックの後返事をすると、重たそうな分厚いカバンを持ったハーマイオニーが入ってきた。
は自分の事務室で、休んでいた間に出した膨大なレポートの採点に追われていた時だった。
手を止め、にっこり笑顔で迎え入れる。体の包帯なども大分とれ、調子が戻ってきていた。

「珍しいのね、一人だなんて。あなたたちよく3人でいるものだと思ってたけれど。」
「私は勉強が忙しくて、最近そんなにハリーやロンにかまっていられないんです。」
「ふふ、そうね。あなただけ全教科とっているって聞きましたよ。本当に信じられないぐらい優秀な子ね。」

笑顔で紅茶とお茶菓子を出してくれたに、ハーマイオニーは顔を赤くしてはにかんだ。
テーブルに並べられた椅子に隣同士に座ると、は教科書を開いた彼女に教え始める。
久しぶりに生徒に教えることができて、本当にこの仕事が好きなんだな、とは思った。


しばらくしてひと段落すると、ハーマイオニーはお礼を言って自分の教科書をカバンに詰めようとした。
しかし、ぎゅうぎゅうでなかなか入らない。横でその様子を見ていたが笑う。

「カバンもハーマイオニーの頭の中も、ぎゅうぎゅうって感じね。」
「そうなんです!もう、ほんっとに時間が足りないぐらいで!」

そんなやりとりをしていると、カバンの中からコロコロと何巻きかの羊皮紙が転がり落ちる。

「レポートもいっぱいありそうね。」
それを拾い上げるのを手伝いながら、が言った。

「はい、そうなんです。あの、先日もルーピン先生がお休みだったから、」
チラリ、とハーマイオニーはの顔を盗み見た。

「スネイプ先生が代講でレポートを出したんです。
 人狼の見分け方と殺し方について…」

「、…そう。」

一瞬、の表情が曇り、息がつまったのを、ハーマイオニーは見逃さなかった。
実は自分の考えていることが正しいのかどうか、ハーマイオニーは誰かに確認がしたかったのだ。
ただそれだけだったのに。
聞かなければよかったと、後で後悔するとは知らずに、その時彼女は聞いてしまった。

「…先生?どうかしたんですか、その、レポートが」
「ううん。違うのよ。やっぱり、まだこればかりは敏感になってて直らなくて。」

笑顔で答えるに、ハーマイオニーは少し違和感を感じた。


「実は幼いときに、家族が人狼に襲われたことがあって。
 偏見を抱くなと生徒に言っているくせに…、恐ろしくてしょうがないの。」







ハーマイオニーが退室した後、は言わなければよかったと後悔をした。
生徒に弱いところを見せる教師など、信頼してもらえないと思って。
そして、もしかしたら彼女を苦しませてしまうかもしれない、と思って。

恩師だけれど意地の悪いスネイプを、聡明なハーマイオニーを、今は責めずにはいられなかった。
自分にこんなことを気付かせるなんて。

そして、なぜその前にあなたは何も言ってくれなかったんだろうと。



机上のカレンダーに印をつける。

日付を指で追う。

月をめくると、ほぼ同じ場所に訪れる印。
ほぼ同じ場所をなぞるの指先。

それは、彼女の隣が空席だった日だった。















(2007.5.17) 甘い気分をぶちこわしてごめんなさい(泣


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