いつの間にか、ハロウィーンが近づいていた。
新学期が始まってから、2ヶ月なんてあっという間だ。
生徒たちはハロウィーンの日にホグズミード行きがあるといって大騒ぎだった。

「ハロウィーンかぁ、懐かしいですね。」
「そうだな、何年ぶりかな?もういい年になってしまったからね。」

そう言うルーピンに、はクスッと笑った。

以前と変わらない、食事の席での他愛のない会話を繰り返しながら1日1日が過ぎていった。
自分の気持ちに気付いた二人には、そのやり取りが大切なひと時に思えて。
お互いの気持ちにも気付き始めていたけれど、それ以上は求めなかった。



Believe in you.

第9話 ハロウィーンのゲスト





ハロウィーン当日。

ホグズミードへ向かう生徒たちを見送ってから、はフリットウィックの飾り付けの手伝いをした。
大広間で毎年宴会が催されるため、この飾りつけも毎年恒例になっている。
数え切れないぐらいの、くりぬかれたかぼちゃたち。
夜には明かりが灯される蝋燭や天井を舞う無数の蝙蝠たち。

かぼちゃを杖から出しているところ、突然、の杖の先から白い煙のようなものがふわっと漂って、途切れた。

「あら?」
それからいくら杖をふっても、何も起きなくなってしまった。
よく見ると、杖の先に近いところに、細いヒビが入っている。

「やだ!こんな時に…ついてないわ。」

長年愛用していた杖だけに、とても気分が落ち込んでしまう
この時、どこか嫌な予感がしたのだった。




生徒たちもホグズミードから戻ってきて、どんどんと玄関ホールをぬけ大広間へ集まっていく。
大人も子供も、こういった宴会の時はわくわくして同じような顔をするものだ。
いつもと違う大広間の雰囲気は、特別な日を演出してくれる。

ルーピンが大広間へ向かう途中、小包を抱えたと鉢合わせた。
彼女は大広間とは逆の方へ歩いていた。

、どうしたんだい?宴会にはまだ行かないのか?」
「ええ、ちょっと。後からすぐ行きます。」
「分かった。じゃあまた後で。」
ルーピンが優しく微笑むと、もにっこり頷いた。





学校のふくろう便を借りて、修理したい杖を杖職人のオリバンダー宛に届けさせると、
はふくろう小屋から大広間へ向かおうとしていた。
ホグワーツの城内は、ほとんど全員が宴会に出席していたのでしん、と静まり返っていた。
まるで真夜中のような静寂の中、彼女の足音だけが木霊する。
そんな中、突然に、

「きゃあああああああああああああーーーーーーーー!!!!!」

と、女性の叫び声がどこからか聞こえた。

「何っ?!!」

は叫び声のするほうへ走った。
階段を駆け上がっていくと、悲鳴が聞こえたのは、どうやらグリフィンドールの談話室への入り口だった。
開けた視界に飛び込んできたのは、「太った婦人」の肖像画の無残な姿。
キャンバスが切り刻まれていて、そして婦人はいないけれども、
その絵の前に佇む、一人の真っ黒な影。

男は肩を上下させて荒い呼吸を繰り返しているところだった。
その手には、長い刃渡りのナイフが握られていた。
彼の足元に、キャンバスの残骸が落ちている。
の気配に気付き、その男ははっと振り向いた。

『…シリウス・ブラック!!!』

最近アズカバンを脱獄して指名手配になっている囚人だ。
振り向いた男は、今にも倒れそうなぐらい痩せていて目の周りがくぼんでいて、
まるで死人のようだった。は迂闊な自分を呪った。今、彼女は丸腰だったのだ。

ブラックは、にナイフを向け、無言でしばらく彼女を睨み付けていた。
向けられたナイフと彼のギラギラした目に、は震え上がりそうになった。
彼女の出方を伺っていたが、一向に動けないのほうへ、ブラックは近づいてくる。

「…合言葉を教えろ…」
低い、しわがれた声でブラックは喋った。彼女が丸腰なのを見抜いたのか、刃先を彼女に近づける。

「わ、分からないわ。寮監と生徒でないと知らないものっ」
「…生徒じゃないのか?」
「私は教師です!」

こんな状況なのに、なんともおかしなやりとりだとは思った。
ブラックは忌々しげにを見て、それから刃先を少しひき、後ずさりし始めた。
危害を加えるつもりはないようで、は少し落ち着く。

「あなたの目的は何?今は全員大広間よ。校内でこんなことするなんて…」
「黙れ!!」

ブラックはそう叫ぶなり、とは反対方向へ駆け出した。

「ダンブルドアを!!」

はやりとりを眺めていた壁の肖像画たちに叫ぶと、急いで彼の背中を追っていた。

「待って!!!!」

彼が階段を降り始めたとき、
がその背中を掴んだ、その瞬間、

目の前のブラックの姿が消え、
彼女の両手は空を掴んでいた。





『…痛い…』

霞む意識の中、には真っ黒な犬が遠ざかるのが見えた。












(2007.5.13) 今回はちょっと慌しかったですね。


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