「大分、寒くなってきたな。」

渡り廊下を歩きながら、ルーピンはくたびれたローブの襟元を少し正して呟いた。
石畳の廊下は、足元からじんわりと冷えてくる。冬場は特に寒いことを思い出した。
部屋に戻ったら、暖かい紅茶でも飲もう。

そう考えていると、前方から一人の生徒がかけてきた。
涼しいのに、シャツ1枚の腕をまくって箒を持っていた。

「あっ、ルーピン先生!」
「やあ、ジョン。元気がいいね。」

にっこり微笑むルーピンに、そのジョンと呼ばれた小柄な少年も笑顔になる。
ずっと走ってきたからか、彼の頬はうっすら赤くなっていた。

「先生、見てください!僕ハッフルパフのチェイサーに選ばれたんだよ!!」
「わあ、すごいじゃないか!よくやったね。」
「はい!」

ルーピンのミドルネームと同じジョンは、2年生の中でも背が低く、マグル出身という理由で
よくスリザリン生からいじめられていた。ルーピンの授業中も、たまに鼻をすすっているときがあった。
ルーピンも気にかけていた生徒の一人だ。
ジョンの今のいきいきとした表情を見ると、自然と笑みがこぼれるルーピン。

先生が、僕をいっつも応援してくれたんです。
 あなたは努力する才能があるから、みんなから何を言われても、好きなクイディッチをやめちゃだめって。
 だから僕、頑張れたんだよ。」
「そうか、そうか。先生にはもう報告したのかな?」
「いいえ、これから行くところです。」

今度の試合観に来てくださいね、とジョンは去り際に行って、また走っていった。
彼の後姿を見送りながら、ルーピンは少し寂しい気分もするが、それ以上に嬉しかった。


彼女も頑張っているんだと。




Believe in you.

第8話 優しい君





―あの夜

が私の部屋に見舞いに来てくれた時。
思わずうとうとして浅い眠りについて、次になんとなく意識が戻ったのは、
彼女が私にブランケットをかけてくれているところだった。

「病人をこんなところで寝かせちゃって、ダメね、私は。」

そんな声が聞こえてきたが、あまりにもだるくてソファの居心地が思いのほかよかったし、
何か、彼女の気配が顔の近くでしたものだから、起きるタイミングを失ってしまったんだ。
には悪いけど、このまま、また眠ってしまおうか。

「でもお腹いっぱいになって寝ちゃうなんて、私よりも子供っぽいですよ、ルーピン先生。」

ああ、確かにそうかもしれない。
君は私がいつも君のことを子ども扱いしてると思っているけど、私はそんなつもりないのに。
でも君の反応が面白くて、少し楽しんで故意にからかっている節はあるかも。

そんなことを考えていると、ふと、私の額を暖かいものが触れた。
の手が、私の額を撫でていたんだ。

そう分かった瞬間、飛び起きてしまいそうだったが、なんとか狸寝入りに努めた。
今起きたら大変なことになると。

彼女に触れられている部分がとても暖かくて、その行為が気持ちよくて。

とても幸せな気分になれた。

残念ながらそのまますぐ、また睡魔がおそってきて私は眠ってしまったから、
きっとこれは夢だったのかもしれない、と翌朝目が覚めて思った。






でも、それが夢だったのではないと分かった。

次の日、私はに昨日の礼を言おうと、彼女の教室へ訪れた。
名前を呼ばれて顔をあげた彼女が見せた笑顔は、いつもと違っていた。

私を心配そうに見上げる瞳や、照れてうつむく仕草。

は私に好意を持ってくれているのかもしれない。




それに気付いた時には、とても嬉しかった。
いつも近くで微笑んでいてくれるのが君であったなら、どんなに幸せなことか。

そう、いつの間にか、私はが好きになっていたんだ。



しかし、私には人を愛する資格がない。

―私は人狼だから

だから、誰かをどんなに愛しても、誰かをどんなに欲したとしても
決して思いを打ち明けることができない。
それはその人を傷つけることにしかならないから。

彼女がもし私を拒絶するようになったら、
彼女がもし私の前から消えてしまったら、
と今でも恐ろしくなってしまう。

それなら、ずっと今の関係がいい。


でも、私の手をとって治療してくれた、君の姿を見ていると期待をしてしまう。



これ以上好きになってはいけないと思うのに

かつての友が私を見捨てなかったように


優しい君は、私を受け入れてくれるのではないかと












(2007.5.12) 暗いぞ、リーマス(汗


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