ルーピン先生は人気がある。
ホグワーツへ来て数日も経たないうちに、には分かった。

以前列車で一緒だったディーンとマリーも、嬉しそうにに話しにきたのだ。

「ルーピン先生に、私2回も褒められちゃったよ!」
「私だって!ルーピン先生大好き」

ころころと、玉のように笑う二人を前に、も一緒に優しく微笑む。
闇の魔術に対する防衛術は、生徒が1年次から教えられる授業だ。
下級生から上級生にいたるまで、みんな彼の授業を気に入っているようで、よく噂を耳にするようになった。
子供たちの好奇心をくすぐるような題材を出して、難しい科目を教えている。

『やっぱり、すごい人だわ』




Believe in you.

第4話 新米教師





頬を撫でる風は、いつの間にか涼しいものへと変わっていた。
校庭へ出ると、木々が色づいているのに気付く。

「ついこの間まで青々としていたのに。あっという間ね」

こんな気持ちのよい場所にまた戻ってこれてよかった、とは都会の喧騒を思い出して口元に笑みを浮かべた。

自分の受け持つ授業のペースも、だんだんとつかめてきて、生徒とも仲良くなれているし。いい子たちばかりだし。
相変わらずルーピン先生は忙しい中、彼女を気遣ってからかったり、悩みを聞いてくれたりする。
いつしか彼はにとって、良き先輩、良き相談相手、そして尊敬できる教師になっていた。

『まだまだ私のほうが経験が浅くて未熟だから、子供扱いされるのはしょうがないわ』
と、も少しは成長していた。






は自室への廊下を歩いていると、ちょっとした人だかりを前方に見つけた。
どうやら罵声が聞こえてくるので、喧嘩のようだ。は息を呑んで彼らに走りよった。

「何やっているんですか?!何の騒ぎ、これは?」

がやってくると、生徒たちは道をあける。口論していた生徒たちも、はっと血がのぼった目を彼女に向ける。
グリフィンドールのロン・ウィーズリーをおさえている、ハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャー。
腕を包帯で吊り下げてるスリザリンのドラコ・マルフォイと、ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルだった。

「口げんかなんて、こんな大勢の前で、穏やかじゃありませんよ!今にもお互いつかみかかりそうじゃないの!」
先生!いつものことですから」
周囲でを心配する生徒たちが彼女をとめようとする。

「ハハッ、新米教師が偉そうに!しかもマグル学の教師だぜ、ばかばかしい。」
「マルフォイ!!先生になんてことを!」
「あの薄汚い奴らのことを教えるなんて、頭がどうにかしてるんじゃないか?」

ドラコがそう言って笑うと、周囲を囲んでいた何人かからも、くすくす、と笑い声が聞こえる。
このやろー!とロンが叫び、ドラコに飛び掛りそうになったのをハリーとハーマイオニーが必死でおさえる。
をとめようとしていた生徒たちは、彼女から一斉に身をひいた。


は怒りで自分が何をしたのか、分からなかったほどだ。


パンッ





小気味いい音が廊下に響き渡った。生徒たちは目を丸くして、その様子を見ていた。

やってしまった。


「こ、この学校にいる以上、そんな言葉を言ったら二度と許しませんよ!!」


ドラコの頬をひっぱたいた手をぐっと握り、は叫んだ。
怒っているのに搾り出した声は震えていて、なんて情けないんだろうと、頭の中で客観的に思う。

「この僕を殴るなんて!!!教師のくせに、なんて女だっ!!!!」
ドラコも怒りと驚きと痛みでわなわな震えて、を睨みつけながら怒鳴り散らす。

「父上に言いつけて、お前なんかクビにしてやる!!」

その言葉を聞いて、ますます頭に血が上った

「いいですよ!!あなたの父上に言いつければいいわ!
 でもね、言っておきますけど、私はもうあの、ルシウス・マルフォイなんて怖くないんだから!!
 そういうことばかり言っていると、あなたいつか後悔することになるわよ?!」

全く動じないどころか、余計怒りを露にしたを見て、ドラコはそれ以上言えなくなり、悔しそうに舌打ちをしてその場を去った。
クラッブやゴイルも彼のあとを追い、だんだんと他の生徒も散らばっていく。

「やるーーーー!!!」
「かっこいい先生!!!!」
「今のマルフォイの顔、笑えるぜ!!」

その場にとどまっている生徒たちから、一斉に歓声が上がった。
ワイワイ、と周囲にいた生徒たちとともに、ハリー、ロン、ハーマイオニーもに駆け寄り、
ぼけーっとしている彼女にとてもスッキリとした笑顔を向ける。

「ありがとう、先生!」
「私、あそこまで先生が言ってくれてとっても嬉しいです。ね、ハリー?」
「あ…ああ、はい。」

ハリーははにかむような、嬉しそうな笑顔をしてを見つめた。
はあのハリー・ポッターを、実はこの時はじめて、間近で見たのだ。強い瞳を持つ、素敵な少年だった。
みんなの歓声を受けて、は恥ずかしそうに笑った。

「いいえ、ちょっと私もやりすぎたかも…」
「そんなことないですよ。」
「そうそう、俺たちあのマルフォイにはいつも腹がたっててさ。
 先生のビンタ、スカッとした!」
「あはは、そう?」

教師としては、後悔の念がふつふつと湧き上がってきたけれど、
はなんとか喧嘩がおさまったようでよかったと、小さくため息をついた。




こうして、可憐な新米教師の武勇伝は、瞬く間にホグワーツ内に広がってしまった。












(2007.5.6) ルーピン先生がでてこなかった…!


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