「さあ、みなさん、授業を始めましょう」 にっこり、が微笑むと、教室の空気は暖かいものに変わった。 第3話 初めての授業 マグル学は、ホグワーツで第3学年以上の生徒が、選択して履修できる科目だ。 魔法界の視点からマグルの文化を考察する科目であり、悲しいことに人気のない科目のひとつだ。 卒業後、生徒たちの多くは魔法界で活躍することを夢見ており、マグルに関係する職を志望する者は少ない。 そのため、数多くある科目のうち、優先順位が下のほうになってしまう。 にとって初めてのマグル学の授業、それは5年生のグリフィンドールとスリザリン合同授業だった。 割と生徒が集まっているのを見て、は内心喜んだ。 「「先生、質問があります!!」」 授業開始の合図をしたとたん、そんな声があがり驚いて目を丸くする。 声の主たちを見ると、そこには赤毛の2人組みがいた。 「あなたたちは、双子の…ウィーズリー君ね。何かしら?」 きょとん、と首を困ったように傾げるを見て、男子たちは頬を赤く染める。 「いくつですか?」 「付き合っている人はいるんですか?」 「女性にそんな風に歳を聞くなんて、失礼よ。君たち」 いきなり出鼻を挫かれたは、困った顔をする。今まで10代後半の子供たちの担任をしたことがない。 こんな質問をされるとは思わなかった。 「歳は20代とでも言っておきます。付き合っている人もいません。」 おおー、っと教室は沸く。 「どの年齢までOKですか?」 「しばらく誰にも興味ありません。」 そう言ってつん、とした態度をとる。それは残念、とおどけてみせるフレッドとジョージに、生徒たちは笑った。 はふう、と短いため息をつくと、改めて生徒たちに向きなおした。 「続きはまた今度にして、この授業のイントロダクションを始めますよ。 マグル学は、この魔法界からみたマグルの文化や生活、彼らとの共存についてを教えていきます。 私もマグルと魔法使いとの間に生まれ、マグルの人たちに見守られて育ってきました。 ホグワーツを卒業後も、マグルの学校に通い、学び、そして教える立場になりました。 前任の先生から学んだことも復習しながら、私の経験を交えながら、あなたたちにふたつの世界のすばらしさを知ってもらいたいと思います。」 彼女が話し始めると、笑い声はおさまり、生徒たちがみなの声に耳を傾けた。 まだ若く、希望がみなぎる凛とした彼女の瞳と声に、誰もが惹きつけられたのだ。 「いまだ、この魔法界ではマグルに対する差別が止みません。でも私はそんな偏見や差別は、ほんとに小さな問題だと思っています。 同じ土地に住む命、大切なのは種族ではなくその人そのもの、人間自身なんです。種族なんて関係ない。 固定概念にとらわれて、世界が狭くなるなんて、悲しいことです。みなさんには、そんな魔法使いに、人間になってほしくありません。」 生徒たちが真剣に聞いてくれている…。 ジーンとしてしまう。 「あ、というわけだから、ぜひみんなに今のことを覚えていておいて欲しいの。」 『なんだか熱が入ってしまったわ』 肩に力が入りすぎていたようで、ハッとしていつもの笑顔を浮かべる。 「えーと、最初の授業から堅苦しいのもよくないので、今日はマグルたちが魔法界について想像を膨らませた、映画というものがあるから みんなで見てみましょう。面白いのよ、とっても」 マグルの視点から見た魔法界についてが、最初の授業のテーマ。 教室からは幾度となく笑い声が漏れていた。 の初めての授業は穏やかに過ぎていった。 「お疲れ様、どうだったかな?最初の授業は」 夕食の席で、ルーピンに話しかけられる。彼は昨日よりも少し顔色が良い。たくさん食べたか、あるいはよく寝たのか。 「ええ、なんとか。でもちょっと熱くしゃべりすぎてしまって。」 ちょっとがっかりした顔をする。 「ハハハ、そうかい?熱いぐらいのほうが生徒に熱意も伝わる」 そう言って、笑いながら夕食に手をつけるルーピン。 「生徒の評判は上々だったみたいだよ。の話も映画も、面白かったって。」 「えっ」 はっとしてルーピンを見る。彼もいきなり近距離で彼女と目があったものだから、驚いて柄にもなく顔を赤くする。 しかし、もともと顔色がよくないものだから、そんな微妙な変化もは気付かない。 「ほんとですか?嬉しい!」 そう言って、彼女は本当に嬉しそうに目を細める。 キラキラと瞳を輝かせるのその笑顔は、ルーピンにとって眩しすぎるぐらいだった。 純粋に微笑む姿は、まるで少女のようだ。 「かわいい人だね、君は」 「えっ?」 今度はが驚く番だった。見つめ返されてそんなことを言われたので、の顔は一気に沸騰する。 パッとテーブルに置かれた皿に視線を移すと、彼女は真っ白な頭の中に無理やり思考を戻す。 『ど、どういうつもり?! からかっているだけ、からかわれてるだけよ。だって私のこと生徒と同じ目で見ているのよ、この人はっ』 「そうやって子供扱いしないで下さい、ルーピン先生。」 そう、決して自惚れたりはしない。それが間違いであっても、今は自惚れられない。 頬を染めながらツンとした彼女の横顔を見て、ルーピンは可笑しそうにハハ、と笑う。 「そういうところが子供っぽいんだよ。大人の女性ならもっと軽くあしらってもいいんじゃないか? まだまだ純真無垢なお嬢さんだね。」 冗談っぽく彼は言っていたが、には通じなかった。 「…ルーピンせんせ」 「ルーピン!」 が眉根を寄せて抗議しようとした瞬間、彼の後ろから別の声が聞こえてきた。 「をからかうのはお止めなさい。まったく優等生の顔をして、あなたも悪ふざけが過ぎていたけれど。」 厳格なマクゴナガルが2人の脇を通って自分の席に着こうとするところだった。 「私からしてみれば2人ともまだまだ子供ですよ。 教師たるもの、生徒の前では軽い言動は慎みなさい。分かりましたか?」 その2人は同じように、まるで生徒に戻ったように、頷き、返事をした。 「「…はい。」」 (2007.5.5) ヒロインが子供っぽすぎるんです。 *web拍手を送る back / home / next |