「ルシウス、あなた随分とあの子のこと気に入ったみたいね。」

隣の席に座っていた美しい少女は、珍しく人を睨みつけながら言った。
「ん?そうだな....確かに気に入ってる。でも、それだけじゃない。」
ルシウスは前で教鞭を振るう教授のほうを見つめたまま、自嘲気味に笑った。
「え...?」

「もっと別の部分に、興味があるんだよ。」





Sweet Memories



- Memory 7 -







「うーんと、この配合は...2対...え、えーと.....」
「違うわよピーター、そこは2じゃなくて3対1だよ。」
「あっ、そうかぁ。...ありがとう、。」

夕食後の図書館。手元が明るくなるように蝋燭が置かれたテーブルで、二つの影が試行錯誤していた。
ピーターはどうしても考えるとき、内容が口に出てしまうらしく、付き合っているがまた前の問題に引き戻される。
二人は明後日提出の魔法薬学の課題に手をつけていたが、なかなか終わらず少し焦っていた。

「あぁ、もう駄目っ。疲れちゃった。」
そう言って机に突っ伏したを見て、彼女よりちょっと座高の低いピーターはおどおどする。
「や、やっぱり、ジェームズたちに教えてもらったほうがい.....」
言いかけた半ばで口をつむぐピーター。
「?どうしたの、ピーター?」
不思議そうに伏せていた顔を上げると、

「!!マルフォイ先輩っ!」
机をはさんで向かい側にいつの間にか立っている人物に、は目を丸くして驚いた。
「やあ、。」
ニッと笑うと、ルシウスは頬を微かに赤く染めたの隣の、ピーターに視線を移す。
ピーターはいつにも増してうろたえるように、ルシウスに目を合わせないようにキョロキョロ視線を彷徨わせていた。
そんな彼らの様子に気づく事もなく、はルシウスに最高の笑顔を見せる。
「先輩、読書でもしに?」
「ああ、まぁそんなところだ。君らは...魔法薬学?」
あまり書き込まれていない羊皮紙を上から覗かれて、は照れ笑いをして、さりげなく自分の手でそれらを隠した。
「そうなんです。ジェームズたちに教えてもらうのも何だか悔しいから、二人で昨日からやってるんだけど、
 なかなか終わらなくて。ね?」
「あっ...う、うん。」
いきなり同意を求められ、また焦るピーター。
「そうか。なら私も手助けしないほうがいいかな。」
そう言うと、ルシウスはがんばって、と言い残して、たちのテーブルから少し離れた席に座り、本を読み始めた。
「あの...?」
「何?」
ルシウスに聞こえないようにピーターはぼそぼそ、とに尋ねる。
「ぼ、僕、寮に戻ったほうがいい?」
遠慮がちな言葉に、は優しく微笑んで首を横に振った。
「ううん。ありがとう。でもそんな気を使わなくていいよ。これ終わらないと困るんだから。さ、早くやっちゃおう?」
ピーターはこくこく、と頷くと、視線を教科書に戻した。けれども、実際は彼と一緒の空間にいたくなかったのかもしれない。








(........駄目だな.......こんなもの読んでいても仕方がない。)

しばらく『高等魔法呪文書 マッティンガム=レアドール著』を読み耽っていたルシウスは、
その分厚い本を膝の上で閉じると、背もたれによりかかって疲れて重くなった瞼を閉じた。
図書館は出てけと言わんばかりに明かりが落とされ、たちとルシウス以外、生徒の影はなかった。

(今まで気付かなかったのに..........何なんだろう、あの彼女の違和感は......?)
を見るたびに感じる違和感。ルシウスはそれを探りたくてしょうがなかった。

(....それに、ホグズミードにいる間中、確かに誰かにつけられてた。がそれに気付いた様子はなかった。)

考えても答えが出てくるはずもなく、体験した事がないのだから、その違和感の正体を探るヒントすらない。
途方に暮れていると、ガタン、と誰かが椅子から立ち上がった音が耳に届いた。


「...、僕、先に寮に戻ってるね。」
声がしたほうにルシウスが目を向けると、ピーターが教科書や羊皮紙を抱えて、いそいそと図書館から出て行くところだった。
もう終わったのか、と思い、ルシウスがに近づくと、スー、スー、という、彼女の規則正しい寝息が聞こえる。
「何だ、寝てるんじゃないか。」
起こさないようにの顔が覗ける隣の席に静かに座ったルシウスは、蝋燭に照らされた、彼女の可愛らしい寝顔を見て目を細めた。
の唇にかかった、鬱陶しそうなサラサラの髪に手を伸ばし、それを後ろに流してやると、
ルシウスは彼女の頬を優しく愛しそうに撫でた。そして、今まで考えていた事を、我ながら馬鹿らしく思う。

「.....どうしようもないな、私は......。」

ポツリ、とそう呟いて彼はまた、彼女の寝顔に微笑んだ。









とりあえずここまでで(汗


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