「うっ、....っく........うぅ...」 「いい加減、泣き止みなさいよ。」 先ほどから一向に泣き止まないルームメイトの肩を抱き、リリーはふぅっと溜息をつく。 「もうすぐ次の授業が始まるわよ?早く移動しないと....」 手で顔を覆っている彼女を覗き込むように、そう優しく言ってみるが全然効果がない。 しかし刻々と時間は迫っているもので、リリーが困った顔をして天井を見上げていると、やっと彼女から返事が返ってきた。 「リリー、ありがとう。先に行ってていいよ。...私、後から行くから。」 震える声でがそう言うと、リリーは頷き、彼女の背中を一度ポンと叩いて立ち上がる。 「分かったわ。じゃあ、先生には"また"具合が悪いって言っておく。その赤い目治してから来なさいよ?」 「うん。」 は力なさげに優しいルームメイトに微笑み、片手を振り、 それを見たリリーも手を振り替えし、じゃあ、と言って部屋を出て行った。 Sweet Memories - Memory 1 - 「あれ、はどうしたの?」 「部屋で泣いてる。」 教室の一番後ろの席に着くなり、隣の席のジェームズに質問され溜息とともにそう答えるリリー。 「あぁ、またいつものアレか?」 「いーい?絶対ひやかさないでよ、シリウス。あなたにからかわれて、前回がひどかったの覚えてるでしょ?」 前から振り返ってニヤ、と笑う彼を睨みながら、リリーは教科書を机の上に並べた。 「はいはい、分かってるって!俺もあんなを見たのは初めてだったなぁ。」 「すごい剣幕で君の事捲くし立てて、僕たちの部屋ボロボロになったんだったね。」 「そうそう、あれは後始末が大変だったもんなぁ。」 シリウスは横に座って苦笑いしているリーマスと一緒に頷く。 「「「これで何回目?」」」 「29回目。」 そうリリーはピシャリと答えて、スゲー、と騒ぐ男の子3人を無視し、遠くを見つめるようにまた溜息をついた。 「少しは私の身にもなってよね。いつものことだって分かってるけど、どうしても心配しちゃうんだから。」 たかが失恋じゃないか。 は熱しやすく冷めやすい性格。すぐに恋に落ち、すぐに失恋してしまう。だから立ち直りも早い。 原因は相手に既に恋人がいたり、ただの彼女の思い込みであきらめてしまったりすることもしばしば。 たまに付き合うまでことが運んでも、半ばでのほうから冷めてしまう。 それに、男子生徒はに告白されると大抵は自分から辞退する。彼女と自分は、釣り合わないと。 なぜなら、の可愛さはさることながら、彼女の生まれは純血の旧家、家だったからだ。 「どうしよう...大丈夫かなぁ...?」 は駆け足で廊下を移動しながら、教室に着いたら怒られる、という心配をしていた。 毎度毎度失恋しては授業に遅れることが多く、そのたびに担当の教授に注意されてきた。 (しょうがないじゃない。) 反省の色もなく開き直りながら、が中庭の横を通り過ぎると、 晴れた空の木陰でハッフルパフとグリフィンドール生であろう制服を着た男女が、楽しそうに話しているのが目に入った。 「.........................。」 思わずその場で立ち止まって彼らを羨ましそうに凝視する。 また失恋の痛みがこみ上げてきて、視界がどんどん歪んでくる。 (だめ!もうっ!!なんでよりによって私の目の前で...) 唇をギュッと閉じて先へ急ごうと、が行くべき方向に振り向いた、その瞬間。 「きゃっ!!」 「!」 危うくすれ違う人とぶつかりそうになり、はずり落ちそうになった教科書を慌てて腕の中に戻した。 「あ、ごめんなさい...」 何気なく謝ろうと、その相手の顔を見上げた途端、が固まる。 (マ、マルフォイ....!!!!) ぶつかりそうになったその相手はに冷たい視線を下ろすと、彼女を馬鹿にしたように、眉を上げて頷いた。 ルシウス・マルフォイ。 彼はが最も関わりたくないと、ホグワーツに来てからずっと思っていた人物。 先輩であるルシウスのマグルいじめは有名で、マグルでないから見ても相当不快感を与えるものだった。 なんでこんな、失恋した当日に........。 かなりハラハラドキドキしながら、は意味もなく彼に向かってヘラ、と口だけ笑ってしまった。 (どうかこのまま何も言わず、立ち去ってください!!) 彼に嫌われたら最後、楽しい学生生活とはおさらばだ。 そんなの願いもむなしく、ルシウスは改めて彼女のほうに向き直し、少し笑いながら言った。 「みっともない顔だ。」 初めて傍で聞いた台詞がこれ? そう思ったは、すぐにはそれが自分に対しての言葉であるのに気づかなかったが、 気づくとすぐに、顔を赤くしながら下を向く。そして自分のポケットを慌てて探った。 すると、 「ほら。」 と、ルシウスが言ったかと思うと、すぐ目の前に白いハンカチを差し出される。 「...え..........?」 驚いて目を見開きながらがルシウスの顔を見上げると、彼は先ほどとは違い、その瞳を優しく細めた。 「返さなくていい。どうせ、また必要になるんだろう?」 そう言って鼻で笑うと、ルシウスは固まってハンカチを受け取れないの教科書の上にそれを落とし、 彼女の横を通り過ぎて行った。 未だ呆然とそのルシウスの真っ白なハンカチを見つめ、はその場を動けないでいた。 「あら?どうしたの?ずーっとさっきからぼーっとして、食事が進んでないみたいだけど....。」 恐る恐るリリーはにそう尋ねるが、またしても彼女から返事が返ってこない。 夕食時、グリフィンドールのテーブルでみんなが食事をしているのに、彼女の手は全く動いていなかった。 「リリー。、まだ立ち直ってないのかい?」 リーマスがを見ながらヒソヒソ、と向かい側のリリーに聞くが、彼女は首を横に振る。 「違うわよ、分からないの?その逆よ!」 「えっ、もう?!」 「スゲー!!」 口々に驚きの声を上げてを見るシリウスたち。そんな彼らの視線に気づかず、はある一点だけを見つめていた。 「で、今度は誰なの?」 ジェームズがその眼鏡を光らせて、面白そうに聞くと、リリーは苦笑いをしながらこう言った。 「今度こそすごいわよ。この子の視線を追っていけば分かるけど....」 「視線?」 リリーに言われたとおり、彼らがずーっとの視線を追っていくと、そこにはスリザリンのテーブルがあり、そして... ガタンッ!! 勢いよく、シリウスが椅子ごと後ろにぶっ倒れた。 リーマスとジェームズも目を丸くして、食べ物が入っているというのに、開いた口が塞がらなかった。 「私、今度こそ知ーらないっ!」 リリーはそう言って、ミートパイにかぶりついた。 (2003.2.20) 昔に書いた初めてのハリポタ話です。しかもルシウスさんお相手。出だしがまた失恋って(汗 ジェームズたちとルシウスさんたちの年の差、原作だと7歳以上なのですが…。お許しください。 この頃、全然ルーピン先生は好きではなかった私(笑 お気に召しましたら(*^-^*)→ web拍手 home / next |