ハリーたちは、その教室へ入った瞬間、いつもと全く違う雰囲気なのに気がついた。
まさか、こんなことが起こるなんて!

奇跡か!?

どんよりとした地下室なのに、まったく空気がどんよりしていない。
嫌な雰囲気も無い。

教壇に立っているいつもの姿が無い。

代わりに立っているのは、にこにこと微笑んでいる可愛らしい先生。





perfume.






「珍しいことに、今日はスネイプ先生が風邪でお休みです。
 ですから私が代講をします。よろしくお願いしますね。」

にっこり。

が笑うと、生徒たちは一斉に騒ぎ出した。

「スネイプが休みだってよ!この3年間ではじめてだぜ!!」
「信じられないわっ!不健康そうに見えて意外と健康だったのに…!」
先生が代わりだなんてラッキー!」

あまりの喜びように、は目を瞬かせる。
噂では聞いていたが、いつもどんな威圧的な授業をしていたのだろうかと。

「残念ながら、私はそこまで信用してもらえてなくって、とりあえず自習と課題がたくさんでているんだけど…
 せっかくだから短い時間でできる、面白い魔法薬をみんなに教えたいと思うんです。どうかしら?」

賛成!と生徒たちが言ってくれたので、は喜んでその魔法薬の煎じ方を教えることにした。



数十分後。
生徒たちそれぞれの目の前にある鍋の中に、無臭でごく透明な液体がぐつぐつしていた。
調合法も簡単だし、遅れがちで危なっかしいネビルにも、いつもと違って手助けが許されたため
全員が同じものを完成させることができた。

「先生、これ一体何なんでしょうか?目的も教えられずに作りましたが。」
ハーマイオニーが少し不審そうにを見上げる。生徒たちも興味津々だ。
は目をきらきらと輝かせて言った。

「香水です」

「え、でもなんの匂いもしないよな?」
「ああ。」
くんくん、と近くで液体の匂いをかぎながら、ロンがハリーに聞いた。
それを聞くと、さらには嬉しそうに生徒たちに話した。

「香水といっても、まだ香はないの。今できているのはベースとなる薬です。
 これにみんなが好きな香のものの一部を入れると、液体はその匂いになるの。
 バラの花弁を入れればバラの香水。クッキーの欠片を入れればクッキーの香水。
 好きな匂いの香水が、この薬で出来るんです。」

へぇっ、と生徒たちは一斉に鍋の中の液体を見つめた。何を入れようか、もう考え始めていた。

「あ、ひとつ言っておきますけど、人の髪の毛を入れるとその人の匂いがするわけだけど、
 そんな変態みたいなことはしてはいけませんよ。」

生徒の中には、一瞬顔色を変えた子たちもいたけれど、は微笑んで見逃すことにした。




その日の午後、に教えられた薬を持って、生徒たちは喜んで学校中をうろうろし始めた。
草花を見つけに行く生徒や、厨房へ行く生徒などなど。
ひとつの香水をつくっては、みんなで交換したり、嫌なにおいをつくって友人をからかってみたり。

「「ルーピンせんせーい!」」
廊下を歩いていると、きゃっきゃっと駆け寄ってくる生徒たちに囲まれて驚くルーピン。
「なんだい、どうしたのかな?」
にっこり優しく微笑む彼の前に、生徒たちは一斉に液体の入った小瓶を差し出す。
丁寧なことにラッピングされているものもあった。

「今日魔法薬の授業で、香水をつくったんです!」
「いつもお世話になってるから、先生にプレゼント!」
「へえ、嬉しいな。どうもありがとう。」
あとで感想聞かせてくださいね、と言って生徒たちはまた恥ずかしそうに廊下を駆けていった。





「君が代講してたのか。」
「そうなんです。勝手に教えちゃったから、あとで怒られるかもしれないけど…
 あ、これおいしそう!!」

ルーピンの事務室のテーブルに並べられている香水の小瓶をかいで、は瞳をきらめかせた。
どれどれ、とルーピンが彼女の手にある小瓶の香をかぐ。

「シュークリームだ!本当に食べたくなるな」
「こっちはチョコレートですよ。うわぁ〜、生徒たちの間にも甘党だって知られてるんですね。
 こんなに甘い香ばっかり。」
可笑しそうにはクスクスと笑う。生徒たちが昼間ルーピンにプレゼントしたものは、どれもお菓子の香水ばかりだった。
甘いものが好きなルーピンには、とても嬉しいプレゼントだった。お腹が空くけれども。

「君は私にプレゼントはないのかな?」
「えっ、だって…、ルーピン先生香水なんてつけないでしょう?」
そういえば、液体が余っていたし、何か持って来ればよかったと、は今になって思った。

「そうだけど、冷たいね。生徒たちみたいにもうちょっと可愛げがあるといいんだけど。」
からかっているルーピンの言葉に、少し気まずくなる
口をとがらせている彼女に気付いて、ルーピンはさっき言ったこととは裏腹に、可愛いな、と思った。
こうやってすぐ表情に出るところとか。
座ったまま、を抱き寄せると、彼女は自然にルーピンの肩に顔をうずめた。

「今度持ってきますから。先生は何の香がいいですか?」
の香かな。」
「わっ、変態!」
耳元で囁かれるものだから、は顔を赤くして笑った。

「変態とはなんだ、傷つくなぁ。」
「だって、気持ち悪いことを言うんですもの。」
表情は見えないが、今度はルーピンのほうがふてくされているようだった。
本当は、とっても嬉しかったんだけど、恥ずかしくてには言えなかった。

「私、香水とか何もつけてないですけど、嫌じゃないんですか?」
「嫌じゃないよ。好きなんだ。こうしているととても落ち着く。」

ほっと幸せのため息をつかれて、も嬉しそうに微笑んで、
ルーピンの背中に自分の腕をまわした。


彼の肩口に顔を寄せると、彼の匂いがする。
それが、この上ない安堵感を与えてくれる。
ああ、この場所が自分の居場所なんだと。




―私も変態かもしれない。

心地よい温かさの中、はぼんやりとそう思った。















(2007.5.26) 甘々です…ごめんなさい、ルーピン先生が偽者(汗。好きな人の匂いって落ち着くものですよね。


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