ルーピン30のお題

27.ドキドキ




「あー、あったあった、これこれ」

やっと探していた背表紙を見つけると、はその本に手を伸ばした。
ぽかぽかとした日差しが舞い込む午後。
静かでゆったりと過ごせるこの図書館は、彼女のお気に入りの場所のひとつだった。
ちょうど本棚の前で、がパラパラと本を立ち読みしていると、忙しない足音が聞こえた。
司書のマダム・ピンスに怒られないようにと、その足音は気を配られたものだったが、の注意を引くには十分で。
気になって彼女が横にちらりと視線を向ければ、見慣れたローブが目に入る。

「何やってるんですか、ルーピン先生?」
「わっ」

こそこそと本棚の合間を歩いていた彼に声をかけると、びくりと驚かれ、咄嗟に口を手で塞がれた。
「ごめん、ちょっと隠れてるんだ。」
眉を寄せて見上げるに、ルーピンは囁くように小さな声で言った。
言いながらも、チラチラと図書館の入り口の方向へ目を走らせている。

「どうしてですか?」
口を塞がれていた大きな手をどけると、も小さな声で聞いた。
ルーピンはいつもの余裕な表情ではなく、いたずらをした子供のような慌てた顔をしていた。
「ええと、ちょっとある人を怒らせてしまってね。」
こそこそ、と内緒話をするように耳元で囁かれるものだから、
くすぐったいしルーピンの吐息も感じてしまって、は頬を少し染めた。

「ある人?」
「あっ、来た!」
「えっ?」
入り口を見ていたルーピンは、慌てて身を隠すように本棚の陰に移動した。それもごと。
ちょうど館内の奥まった場所にあるその本棚の脇は、入り口から見たら死角だった。
ルーピンが隠れるというよりも、壁と彼に挟まれてしまったのほうが、むしろ隠れてしまった感じで。


『うわぁ、どうしよう…』



ドキドキ


ぎゅっと押し付けられたルーピンの胸板は、ちょうどの顔ぐらいの高さで。
彼の心臓の音がドクンドクンと、早鐘のように聞こえる。
くっついた体がとても温かくて。

突然訪れたこんな恥ずかしい状況に、は更に顔を赤くさせた。
呼吸することはできるけど、あまりにも恥ずかしくて息苦しくて、どんどん自分の顔が火照るのを感じる。
これをルーピンに気付かれたらどうしようと、もっとドキドキしてしまう。


『ああ、もう嫌。おかしくなっちゃいそう。』


早く開放して欲しい、と思うけれど、その時間はとても長く感じられて。
それからしばらくの間、ずっと沈黙が流れていた。
ふいに、向こうのほうでカツンカツン、と重苦しい足音が聞こえたかと思うと、またその音は離れて行ってしまった。


「…周りに誰もいないよね?」
「…私何も見えません…」
「あ、そうだったね。すまない。」

身長差があるから、ルーピンに視界を塞がれていたは、全く周囲の様子が分からなかった。
壁から少し身体を離し、ルーピンは彼女を見下ろすと、彼は少し笑いを堪えるような困った表情をした。

、顔が真っ赤だよ。」
「……」

火照る顔をどうしようもないし、恥ずかしくて言葉が見つからないは、
怒った顔をしてルーピンを軽く睨み付けた。

「苦しかった?」
「…はいっ。
 なんだかよく分かりませんが、隠れるなら一人で隠れてください。私は巻き込まれても困ります。」

手に持っていた本を胸に抱えなおすと、はツンとして彼と壁との間をすり抜けようとした。
でも、ふいに壁につかれたルーピンの片腕に、行く手を阻まれる。
困ってまた見上げるに、彼は楽しそうに微笑んで、一言。

「これはお詫びの印」

「!…まって、」

近づいてくる彼の顔に驚いて抗議の声をあげようとしたけれど、の唇は彼のそれに塞がれてしまった。
顔を逸らそうと試みると、頬に手を添えられてしまって、逃げられなくなってしまう。

「ん、…や…、…生徒が…っ」
「大丈夫、見えないよ」

ほんの少し唇が離れた距離で、甘く低い声でそう囁かれて、益々の胸が高鳴る。
いくら人目に付きにくい死角だからと言っても、図書館で教師2人がこんなことをしていたら大問題だ。
でも、何度か角度を変えて優しく口付けられていくうちに、気持ちよくて、の思考も止まってしまいそうになる。
場所が場所なだけに、いつもよりドキドキしてしまって、熱に浮かされてきた体も力が抜けてしまった。

バサッ

の持っていた本が、力の入らなくなった彼女の指先から抜け、床に大きな音を立てて落ちた。
びくりとして2人が唇を離した時、ピタリ、とルーピンの首筋に何か冷たいものが当てられた。



「お取り込み中のところ申し訳ないが」



こめかみに血管を浮き立たせ、口をひきつらせて苦笑いするスネイプが、ルーピンに杖を突きつけていた。


「…やあ。君ってほんとタイミング悪いよね、セブルス」
「!!!」

対するルーピンも、振り向いて苦笑いをしながら言った。は真っ赤になって手で顔を覆った。

「さあ、我輩と一緒に来てもらおうか。」
「ちょっとこの後は用事があるから、さっきの件はまた明日でもいいかな?」
「用事?」

胡散臭そうな目でルーピンを睨むスネイプ。

「そう、に頼まれていたことがあって」

今度はを睨みつけるスネイプに、彼女は肩をビクリと揺らせると、

「いいえ!私は何も頼んでいません!どうぞ連れてってください!」
?!」

ショックを受けるルーピンの背中を押し、は微笑んでそう言った。

「だそうだ。」
にやり、とスネイプが口角をつりあげてルーピンを見た。
彼は少し恨みがましい視線をに送ったが、さすがに諦めたのか、潔くスネイプに連れて行かれた。
ひらひらと手を振るを残して。




2人を見送ったは、ふう、とため息をついて呟いた。

「後が怖い…」














(2007.8.6) 先生、セクハラですよ!…私の書くルーピン先生は、どうしてこう格好悪いのか(汗。


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