ルーピン30のお題

18.シリウス




それは木々が色づき始めた、ある日のことでした。

リーマスとの家に、お客様がいらっしゃいました。




「リーマス!リーマス!!」

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

新聞の求人欄をしかめっ面で眺めていたリーマスは、
急ぎ足でリビングへ駆け込んできたを見上げた。
彼の声が少し不機嫌なのは、最近よくあることだった。


「なんだよムーニー、その顔は。新婚だっていうのに贅沢な奴だ」

「…シリウス!!」

彼女に続いて部屋に入ってきたシリウスを見て、リーマスは嬉しそうな顔をした。
対するシリウスも、にやっと面白そうに笑った。
どことなくまだやつれていたけれど、以前アズカバンにいた時よりは、随分回復しているようだった。

「式の後すぐいなくなってしまうから、二人で心配したよ。」
「ああ、そりゃ悪かった。まさか誰かさんが魔法省の役人をゲストで呼んでるとは知らなくてね。」
呆れた様子でシリウスはを見た。彼女はきょとんとして首を傾げる。

「紹介できなかったけど、あの人たちは大丈夫だったのよ。私がお世話になった方たちですもの。」
「そうか、どうりでキツイ視線を感じたわけだ。類は友を呼ぶからな。」
「シリウス!」
皮肉を言う彼を、は思わず睨んだ。横で見ていたルーピンが苦笑いをして、シリウスに椅子を勧めようとした。
ところが。

「あー!待って待って!」
疲れた様子のシリウスが椅子に腰掛けるのを、ははっとして止めた。
不思議そうな顔をして、彼女を見るシリウスとリーマス。

「あの、先にシャワーでも浴びて着替えたら?なんだか泥だらけだし。」
「……。」

絶句したシリウスの眉が、ぴくりと持ち上げられた。

「そうだね、その間に夕食の支度でもしとくからさ。
 食べていくだろ?しばらくこの家にいてもいいし。」
フォローのように、リーマスが微笑んでそう言うと、シリウスは一瞬彼をちらりと見て、それから頷いた。

「じゃあ、着替え用意してくるわね。リーマスのでいいかしら…」
そう言いながら、リビングから出て行ったの後姿を見ながら、シリウスはぽつりと呟いた。

「見かけによらずいい性格してるな、お前の嫁さん。」
「悪気はないんだよ。まぁ、彼女は綺麗好きだからね。」








バスルームから出てくつろいでいると、またしてもシリウスの前で、少し遠慮がちな顔をしたが微笑んだ。
キッチンからはおいしそうな香が漂って、彼はとってもお腹が空いているというのに。
どうやらリーマスが今晩の夕食の準備をしているようだった。

「…今度はなんだ?」
「そんな警戒しなくてもいいじゃない!」

は片手に櫛を持って、シリウスに微笑んでいる。
対するシリウスは、訝しげな表情で、彼女を見上げた。

「ねえ、犬の姿になってくれたら、毛つくろいしてあげるわ!」
「は?」
「私実は小さい頃から、犬が飼いたかったの。でも一度も飼えなくて…」
「俺は君のペットか?!」

やや脱力したシリウスが、眉を寄せてを見上げるが、彼女の"お願い"というキラキラした視線には勝てなかった。
やがて呆れながらも、彼はため息とともに言った。

「まってく…しょうがないな。今晩泊めてもらう礼だ。」
「やった!」

火のない暖炉の前の、少し広いスペースで、シリウスは大きな黒い犬へと変身した。
は嬉しそうな表情をして、彼の脇に座り込んだ。

「わぁ、かわいい」

お座りする犬のなめらかな黒い毛を撫でながら、もう片方の手に持った櫛で、は彼の毛をとかし始めた。
つやつやと輝く毛並みは立派なもので、触れているの表情も次第に穏やかになってくる。
シリウスも気持ち良さそうに、可愛らしい瞳をとろんとさせていた。



「よし!もういいわよ」

しばらくして、が笑顔でそういうと、立ち上がった黒犬は尻尾を振って、嬉しそうに彼女を見上げた。

「きゃははは!ほんとに可愛い〜!」

すっかりその犬がシリウスとういことを忘れていたは、
大きな犬を抱きかかえながら、頬をぺろぺろと舐められても楽しそうに笑い声を上げていた。



?夕食の支度できたけど…」
「あっ、ありがとうございます」

エプロンをしたまま、ダイニングから顔を出したリーマスは、絶句した。
なぜなら、暖炉の前で寝転がっているの腕の中にいるのは、犬の姿のシリウスで、
さらにはその彼が彼女の顔を舐めていたのだから。
いくら犬の姿とはいえ、リーマスには許せなかった。

「今行くから、…って、リーマス?!」

スタスタと彼らのもとに歩いてきたリーマスは、無言&無表情のまま素早く黒犬をの腕から引き離すと、
こともあろうに玄関から外へ放り出してしまった。
キャンキャンと抵抗する可愛らしい鳴き声がどんどん遠ざかる様子に、は目を丸くしたまま固まっていた。

「ちょっと、リーマス!シリウスは指名手配されてるんですよ?それなのに外に出して、」
「指名手配にせよ私の友人であるにせよ、やっていいことと悪いことがあるからね。」
「だって犬だったじゃないですか」
「犬でもシリウスだよ」

反論するに、リーマスは不機嫌そうな顔をすると、どこからかタオルを出した彼は彼女の横に腰を下ろし、
ごしごしと彼女の頬をこすり始めた。は眉を寄せて、困ったようにそんな彼の様子を見つめた。
痛い、と訴えるに、リーマスは君は無防備すぎる、とぶつぶつ愚痴をこぼしていた。



「おい、開けろよリーマス!俺は指名手配されてるんだぞ?!
 ……まったくなんて夫婦だ…」

置き去りにされうなだれたシリウスは一人、ドアの外で大きなため息をついた。


















(2008.5.16) なぜかシリウスにはタメ口で、旦那さんには敬語のままのヒロインです(笑。シリウス災難。


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