「あれ〜〜〜...?ないなぁ。どこにいったんだろう......。」

ペタペタ、と手を動かして床を探ってみるが、なかなかお目当てのものに辿り着かない。
半ばあきれめかけていた時、誰かの足音が、前方から近づいてくるのが聞こえてきた。







Hand in Hand









「何をしている、ミス・?もう生徒は寮へ戻っている時限だが。」

どことなく、いつも急いでいて、重たい足音。
案の定、が想像していた人物の声が上から降ってくる。スリザリンの寮監、スネイプだった。

は慌てて立ち上がると、声のしたほうに向き直し、膝についたほこりを払った。
「こんばんは、スネイプ先生。」
のほほん、と挨拶をするに、彼は少し気が抜けると腕組みをして彼女を見下ろした。
「我輩は君に何をしているか、と聞いたんだが。聞こえなかったかね?」

グリフィンドール生のは、いつもこんな調子だった。
マイペースで、朗らかで、悪く言えばネビル・ロングボトムの次にトロいし、怖がりだった。
そんな彼女にいつもイライラしていたスネイプが、その名前を何度授業中に呼んだことか。

「ええ。あの、大事なものを落としてしまったみたいで探してたんですが....」
そう言って曖昧に微笑み、薄暗い廊下を見回す
今だけ、ちょうど二人が立っている場所には壁に灯りが燈されているため明るかった。
「全然見つからなくて。」
しゅん、とした顔がスネイプの目の前に戻ってきて、がっくりと肩を落とす。
「大事なもの?.....何を落としたんだ?」
何でこんな問題児のことを、気にかけてしまうのか。スネイプはまた質問をしながら、そんなことをふと思った。
「はい。あの.....」
もじもじ、と手を握ると、は言いにくそうにスネイプの顔をチラリ、と見て、か細い声で言った。

「杖を...」




「杖?!ミス・、君は一人前の魔女になるためにここへ来ていると言うのに、
 その大事な杖を失くすなんて自覚が足りないのではないかね?」
低く、怒ったような声音にビクッと体を振るわせる。思わずごめんなさい、と謝ってしまう。
「まったく、君はいつも........」
またいつもの説教が始まるのか、と思ったらスネイプの言葉が突然止まる。
不思議に思ってが顔を上げてみると、そこには額に手を当てて、目を閉じているスネイプが。
「...先生?」
恐る恐る声をかけてみると、今度こそ本当に呆れた顔をしてを見ながら、スネイプが床の一点を指差した。
「あ........」
彼の指す先には、短い茶色い杖が1本転がっていた。
「私の杖だ!!よかったぁ!!ありがとうございます、スネイプ先生!!」
自分の杖を手に取ると、彼女は心底嬉しそうに微笑んだ。
スネイプは何も言わずただ頷いて、苦笑いをしながら無邪気な彼女を見つめた。

自分が見つけなかったら、彼女はずっと杖を見つけられなかったのではないか。




「さあ、もう自分の寮に戻るんだ。」
ふぅっと一回溜息をついた後、スネイプがその場を去ろうとする。
しかし、は黙ったまま、足音も立てず、一向に動こうとしない。
不審に思ったスネイプは、もう一度を振り返ると尋ねた。

「ミス・?」
「はい。.......あの、先生。」
遠慮がちに言ったその言葉は、なんともマヌケだった。

「すみません、あの、グリフィンドールの合言葉知りませんか?
 今日から変更になったみたいなんですが、聞くの忘れちゃって。」











彼女は、どれほど彼が自分に呆れているのか全く分かっていない。
嬉しそうに微笑みながら、は自分の横に立っているスネイプを見上げた。
内心、スネイプは彼女を廊下で見つけなきゃよかったと、つくづく思っていた。

「ごめんなさい、スネイプ先生。私、怖がりで。」

そう言ったの片手には、スネイプのローブの裾が握られている。
「まったく、君はいつもどこか抜けている。」
太ったレディの肖像画の前で、とスネイプはグリフィンドール生が誰か来ないか待っていた。
あいにくスネイプ自身もグリフィンドールの合言葉など知らず、当の寮監であるマクゴナガルは探したが見つからなかった。
しょうがなく、怖がりのを一人置いていく訳にはいかないし、スネイプがこうして付き合うはめになった。

「この時間だ。誰も通らないと思うが........見つけたら減点だな。」
かなり疲れきった低い声が辺りに響く。既に太ったレディはいびきをかきながら、絵の中で眠っている。
「.....このまま、誰も来なかったらどうしましょう?」
ふと不安げに見上げてくるに、スネイプは冷たく返事をする。
「そうだな、(まさか自分の部屋に連れて行く訳にも行かないし)医務室にでも行けばいい。あそこならベッドも置いてある.....」
「ぇくちっ!!」
(ぇくち?)
スネイプの言葉を遮ったのは、のくしゃみだった。
はブルッと体を震わせると、またスネイプを見上げる。
「ああ、医務室。そうですね.....誰かいるといいんですけど....」
怖がりのだから、当然誰もいない真っ暗な医務室で、一人眠るのを想像するとぞっとする。
ますます不安になってきただったが、急に、バサッと肩に重いものが乗ったのを感じ、目を瞬かせる。

「あれ?」
肩に置かれたものに触れて、見てみると、それは長い真っ黒なスネイプのローブだった。
微かに苦い薬草の匂いがして、何より温かかった。
「先生、これ。」
「着ているといい。夜は冷えるからな。」
「で、でも!それじゃあ先生が....」
「我輩は大丈夫だ。」
照れているのか、に目を合わせずそう言うと、スネイプは腕を組んで廊下の先を見つめ、顔をしかめていた。
長いローブはの足元でくしゃくしゃになっていて、生徒用のローブよりも少し重かった。
けれど、このローブの温かさと同じくらい温かい、スネイプの気遣いに触れて、は嬉しくて頬を紅く染める。

「ありがとうございます、スネイプ先生。」

にっこり笑うと、は自分を包むローブを、ぎゅっと抱きしめた。









「うわっ!!なんでスネイプが俺たちの寮の入り口にいるんだよ、それもと!」
「もしかして....なんかちくりやがったな?!の奴。それで俺たちのこと待っているのかも!」

とスネイプの雰囲気など感じ取れない双子のフレッドとジョージは、
寮の入り口が見える廊下の曲がり角で、二人ひそひそと囁き合っていた。
彼らはスネイプが自分たちを待ち伏せしているものと思い、ずっとその角に身を潜めていたため、
たちもずっと、その場に突っ立っていなければならなかった。



しばらくしてその場を離れたスネイプとが、どこに行ったのか、双子は知らない。

医務室か、あるいはスネイプの部屋か。















(2003.2.27) マヌケなヒロインって、結構可愛いカモ。


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